かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
ぜんそく
- 牧田病院
内科医師
泉 寛志氏 - 2000年北海道大学医学部卒業。旧札幌社会保険総合病院、市立千歳市民病院、小樽市立病院、帯広厚生病院、市立札幌病院など勤務を経て、24年4月より現在に至る。日本内科学会会員
慢性的に繰り返す咳は、一度呼吸器内科の受診を。
「ぜんそく」以外の病気の可能性もあるため、正しい診断と適切な治療で快適な日常生活を
正しい診断と、効果的な個別化治療で発作を抑え、QOLの向上を
ぜんそくとは、かつては体の弱い子どもの病気で、激しい咳、呼吸をするときにゼーゼー、ヒューヒューという音が出る喘鳴(ぜんめい)、胸が苦しいといった発作が起こったり治まったりを繰り返す病気と理解されていました。しかし、研究が進んでくる中で、現在ではアレルギーを主体とする慢性的な気道の炎症による病気であることが分かり、治療法も大きく変わってきました。
ぜんそくの昔の治療で最初に使われたのは気管支拡張剤でした。発作だけを止める薬なのですが、しかも急速に普及したこともあり、かえって根本原因である慢性的な炎症を抑える治療がきちんと行われなかったために、ぜんそくで亡くなられる方が結構いらっしゃったのです。しかし、その後ぜんそくの根本原因が分かり、1970年代に気道の炎症を抑えるステロイド吸入薬による薬物療法が確立し、わが国においては90年代に薬物療法の中心として位置付けられたことから、発作を抑える薬との併用でより効果が得られるようになり、厚生労働省の人口動態統計によると96年以降、ぜんそくで亡くなられる方もかなり減少しました。
近年では、ぜんそくの種類に応じた治療が進んでいます。ぜんそくには食べ物や花粉など、ある特定のものに対するアレルギー反応が引き金になって発作を起こす「アレルギー性ぜんそく」と、原因が特定しにくい、環境などのさまざまな刺激によるアレルギー反応として発作を起こす「非アレルギー性ぜんそく」の大きく2つの種類に分けられるほか、アレルギー性ぜんそくの方でも、血液中のIgE抗体や好酸球の量によっても効果の高い薬の系統が異なることから、吸入ステロイド薬と、発作を抑える内服薬との組み合わせを基本に、それぞれのタイプに応じた、より効果が期待できる個別化治療が行われています。このほかにも、難治性の発作で入院を繰り返すような方には、生物学的製剤を定期的に注射する治療法も組み合わせることで、発作を起こすことなく過ごせるという方も増えています。ちなみに、ステロイド薬に対しては、患者さんの中には“怖い薬”という抵抗感を持たれている方もいるようですが、ぜんそくに使うステロイド薬は肺にしか効かず、使う量も他の疾患に使うステロイド薬よりもかなり少ないため、ほとんど心配はありません。
繰り返す咳の原因は、ぜんそくに限らない。一度呼吸器内科の受診を
ぜんそくは、アレルギーを主体とする体質による病気のため、完治するということは非常にまれなことです。中には薬をやめても発作を起こさなくなる方もいらっしゃいますが、その方の体質そのものは変わることはありませんので、基本的には一生付き合っていかなければならない病気と言えます。治療の目標も、発作が起きることなく日常生活を支障なく過ごせるというのが現状です。その意味では、治療を続けることはもちろん、アレルギー反応を起こす特定のものや、さまざまな環境下における過剰な刺激、たばこをはじめとする大気汚染物質などはできるだけ避けた方が良いでしょう。
最後に、現在は症状がなくても小児ぜんそくを経験された方は、大人になってから成人ぜんそくに移行する比率が高いといわれています。また、大人になって初めて症状が現れる方もいますが、ぜんそくの原因には遺伝的要素もあるため、両親や親族にぜんそくの方がいる場合は、発症する可能性は高いと言えます。
また、ぜんそくが疑われる症状でも、実は咳ぜんそくやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、他のアレルギー症状、心不全を原因とする心臓ぜんそくなどもあるため、正しい診断と適切な治療を受けるためにも、長く続く咳を繰り返す場合は、一度呼吸器内科の専門医がいる施設を受診してみることをお勧めします。