かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
在宅医療(訪問診療)

- 及川医院
院長
及川 太氏 - 旭川東高、帝京大学医学部卒業。さいたま市立病院、旭川厚生病院、旭川赤十字病院血液透析センターなどを経て、現在に至る。日本外科学会外科認定医。日本医師会認定産業医ほか
「最期まで住み慣れた自宅で自分らしく過ごしたい」という患者の思いをかなえる、日本における看取りの原点回帰とも言える医療と介護を実践する選択肢の一つ
超高齢化社会を背景に考えたい
「医療・介護」と「最期の迎え方」
厚生労働省の「人口動態調査」によると、かつて日本では、自宅で亡くなるのが当たり前でした。統計を取り始めた1951年には自宅で亡くなる方が82・5%で、病院で亡くなる方は11・7%に過ぎませんでした。しかし、25年後の76年を境に病院で亡くなる方が自宅で亡くなる方を上回り、2005年には82・5%に達しました。その一方、近年の高齢化を背景に、高齢者による長期入院の増加による病床数不足や、医療財源のひっ迫などから、国では入院期間に制限を設けたり、増大する医療費の抑制のため、さまざまな解決策を施行し始めました。その一つが「在宅医療の推進」でもあるのです。
もちろん在宅医療を推進する理由はそれだけではありません。19年(令和元年)版の高齢社会白書によると、60歳以上の方に「万が一、治る見込みがない病気にかかった場合、最期を迎えたい場所」を聞いたところ、約半数が「自宅」と答えています。このことから考えられるのは、これまでに病院で亡くなられた方の中にも、実は最期まで自宅で過ごしたいと思っていたのにもかかわらず、そのことを声に上げられないまま亡くなられた方が少なくないということではないでしょうか。
通院困難な患者を支え、個人の尊厳を守る医療と介護の在り方の一つ
在宅医療とは、治療や療養を必要とする患者さんの自宅や施設などの生活の場に医師や看護師が訪問して提供する医療のことです。対象となる方は、寝たきりの高齢者などをはじめ、病気やけがなどで通院が困難な方、がん末期の方や認知症の傾向が見られる方なども含め、普通に考えれば入院を選択することがベストだと思われる方でも、「住み慣れた場所で最期を迎えたい」「最期まで自分らしく過ごしたい」「家族との時間を多くしたい」「長年一緒に暮らしてきたペットと離れたくない」など、その理由はさまざまですが、やはり自宅で人生の最期を迎えたいと希望する方です。
在宅医療を推進するための医療や介護に関する保険制度などが整備される以前は、在宅医療を支えるのはほぼご家族しかいなかったため、そこには限界もあり、ご本人も諦めざるを得ないのが現実だったと思います。しかし現在では、在宅医療を行うための訪問診療医をはじめ、訪問看護・訪問介護・訪問リハビリなど、多職種のスタッフが連携しながら、ご本人やご家族をサポートする体制が整備され、例え1人暮らしの方であったとしても「住み慣れた場所で最期を迎えたい」という思いもかなえられるようになってきました。その意味でも、在宅医療を受けたい、あるいは在宅医療について詳しく知りたいという方は、まず一度、普段通っているかかりつけの先生や、地域のケアマネジャーさんに相談してみてはいかがでしょうか。
また、在宅医療を希望される患者さんは高齢の方が中心となるため、抱えている病気は一つとは限らず、がんの終末期にある方でも、慢性の肺疾患や心臓病など、さまざまな病気を併発していることも多いと思われます。当院では、長年にわたって“わが家の総合病院”をモットーに、内科全般から腰や膝などの痛みのコントロール、皮膚症状や泌尿器疾患など、総合的に患者さんを診る目を養い実践してきました。25年4月からは外科の専門医で消化器がんの手術に豊富な経験を持ち、がんの疼痛管理にも精通し、地方病院では各種の診療科で研さんを積んだ栁田尚之副院長と共に、自宅に居ながら入院しているのと同等の医療と心のケア、ご家族へのサポートを含め、在宅医療に取り組んでいます。さらに、当院は19床の有床診療所で、急に入院が必要となった場合でも柔軟な対応が可能な体制も整っていますので、在宅医療に対する不安や質問など、当院にも気軽にご相談ください。