かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
高血圧性疾患
- 日本医療大学
総長
島本 和明氏 - 1971年札幌医科大学卒業。同大第2内科教授、同大附属病院病院長、同大学長を経て、2016年4月より現職。日本高血圧学会・日本動脈硬化学会各名誉会員。国際高血圧学会理事。日本老年医学会元理事。日本循環器学会特別会員ほか
日本で約4300万人と生活習慣病の中では最も患者数の多い「高血圧」。動脈硬化による脳卒中や心臓疾患、腎臓病、さらには認知症の原因の一つとして改めて注目されている
国民病といわれる「高血圧」
脳卒中や認知症とも密接に関連
日本人の死亡原因に寄与する各種リスク割合を見ると、感染症疾患以外で一番多いのが喫煙で、年間13万人が、次いで高血圧によって10万人以上が亡くなっています。高い血圧が動脈硬化を起こし、心臓病と脳卒中を引き起こすのです。特に脳卒中は8割が高血圧で説明されます。
このように高血圧は、日本において国民病ともいわれ、年齢とともに増加します。全国で約4300万人といわれる患者数は、日本国民の33%に当たります。加齢とともに上がっていく血圧を抑えることができれば、血管はもっと柔らかい状態を保つことができ、動脈硬化の進行を防ぐことにもつながります。
さらに、高血圧は脳卒中とともに、要介護に関連する2大要素の一つである認知症とも密接に関連します。認知症は増加し続けており、2025年には700万人まで増えるという予測もあります。アルツハイマー型認知症についても、血圧や血糖、コレステロール、肥満などをきちんと管理していると認知機能テスト(MMC)の点数は落ちませんが、管理していないと落ちていくことが分かっています。アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞の変性による病気だと思われていますが、実は血管リスクも重要なのです。
高血圧の管理は世界中の共通課題であり、毎年5月17日の「世界高血圧の日」には、減塩食の訴えなど、高血圧の啓発活動を行っています。しかし、いまだ十分に管理されていない現状から、日本高血圧学会で17年4月からは毎月17日を「日本高血圧の日=減塩の日」と定め、国民の皆さんに“減塩しましょう”という働きかけを始めました。
厚生労働省の報告によると、30歳以上で男性の60%、女性の45%が高血圧といわれており、そのうち薬を飲んでいる方の中で、収縮期血圧140mmHg/拡張期血圧90mmHg未満で、正常血圧まで管理されている方は約半分しかおりません。高血圧全体で見ると27%で、高血圧の73%が正常血圧に管理されていないというのが現状です。
この理由として「140/90mmHgくらいでまあいい」と医師側が思っている可能性が極めて高いということが考えられます。ですから、例えば142/86mmHg、132/92mmHgでもいいということです。また、患者側は、できれば薬を飲みたくないことや、できるだけ病院には行きたくないという意識があると思われます。つまり、医師、患者ともに管理の悪い状態で納得しているのではないかと考えられます。この問題を克服しない限り、脳卒中あるいは認知症の予防は難しいと言わざるを得ないのではないでしょうか。
札幌医科大学時代に端野町・壮瞥町で35年間にわたって追跡した疫学データからも、血圧は低めが良いことが分かっています。つまり、正常血圧は、収縮期で120mmHg以下の至適血圧、120~129mmHgの正常血圧、130~139mmHgの正常高値血圧の3つに分けられますが、それぞれの心血管病の発生率を追跡すると、至適血圧1に対して、心血管病全体の発症率では正常高値血圧で2・4倍、脳卒中は3倍まで高くなるというデータが得られました。このことからも分かるように、正常血圧であっても高いほど病気の発症率は高くなるのです。そう考えるなら、決して「このくらいでまあいい」とは言えないのです。
減塩には「和乳食」を。適切な血圧コントロールで健康寿命増進へ
18年12月10日に成立、19年12月1日に「脳卒中・循環器病対策基本法」が施行されました。同法は、脳卒中や心筋梗塞などの循環器病の予防推進と、迅速かつ適切な治療体制の整備を進めることで、国民の健康寿命を延ばし、医療・介護諸費の負担軽減を図ることを目的としています。さらに、20年10月27日に同法の基本理念に則り、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、「循環器病対策推進基本計画」が閣議決定されました。
この中では「循環器病の予防や正しい知識の普及啓発」、「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」、「循環器病の研究推進」の3つを全体目標として取り組み、40年までに3年以上の健康寿命の延伸と年齢調整死亡率の減少を目指して、予防や医療、福祉サービスまで幅広い循環器病対策を総合的に推進するとされています。
国民一人一人の取り組みとしては、やはり塩分管理でしょう。日本人の食事に代表される「和食」は世界で最も健康的な食事として「ユネスコ無形文化遺産」に登録されました。しかし、唯一の欠点は塩分量です。漬物やみそ汁は意外に多くの塩分が含まれているということを念頭に置く必要があります。近年、日本人の塩分摂取量は減少傾向にありましたが、ここ10年ほど高止まりしていることと、むしろ少し上昇傾向さえあることが、一つの課題となっています。わが国では、1日に男性7・5g、女性6・5g、高血圧患者は男女とも6g未満を目標に設定していますが、現在は平均10・5gと、男女とも2~3gのギャップがあります。厚生労働省では、「健康日本21(第3次)」で、24年から32年までに1日7gまで食塩摂取を下げる方針を出しました。
減塩食の取り組みとして、北海道で近年力を入れているものに「和乳食」があります。これは和食に使っていた塩分などの調味料の量を減らし、代わりに牛乳を加えることでコクや旨味が増し、減塩食につなげていこうというものです。私も納豆1パックに付いているタレを半分に減らし、代わりに牛乳小さじ2杯ほど加えるミルク納豆を実践しています。
塩分や運動など生活習慣の改善で、自分で正常血圧を管理することが必要なのです。病状や成果が分かりにくいだけに、「このくらいでまあいい」と考えてしまいがちでしょうが、高血圧というものを少しでも理解していただき、「自分の将来の健康は自分で守る」、そういった意識を持つことが最も重要なのではないでしょうか。