かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
心臓弁膜症

- 札幌里塚病院
内科・循環器内科科長
佐々木 晴樹氏 - 1999年札幌医科大学医学部卒業。日本内科学会認定内科医。日本循環器学会循環器専門医。日本高血圧学会高血圧専門医・特別正会員。日本老年医学会老年科専門医・指導医ほか。医学博士
加齢による動脈硬化性や心筋疾患による機能低下が主な原因。初期には自覚症状が現れにくいが、息切れや下腿のむくみ、体重増加は一度循環器内科に相談を
心臓にある4つの部屋を仕切る「弁」の
狭窄や閉鎖不全で起こる病気
心臓には右心房、左心房、右心室、左心室という4つの部屋が存在しており、その4つの部屋は血液の逆流を防ぐための「弁」に仕切られていて、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁があります。その「弁」に何らかの障害が生じると、血液の逆流が生じたり、血液の循環が悪くなります。これを弁膜症と言います。
弁膜症には大きく分けて、弁がうまく閉じなくて血液が逆流してしまう閉鎖不全症と、石灰化などにより弁が硬化、狭小化し、血流の流出が妨げられてしまう狭窄症に分かれます。成人の主な弁膜症には大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症などがあり、それらが単独もしくは合併する場合もあります。初期には自覚症状がほとんど現れないため、ある程度病状が進行し、血液の循環が悪くなった、いわゆる心不全の状態で発見されることが多いです。心不全の状態になると息切れや下腿(膝から足首まで)のむくみ、体重増加が見られるようになります。初期でも健診や一般診療での聴診で発見される場合もありますので、これらの症状が気になる場合は、循環器内科にご相談ください。
現在、成人で頻度が多い弁膜症は大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症です。大動脈弁狭窄症の原因にはいくつかありますが、最も多いのは加齢にともなう動脈硬化性です。また大動脈弁は本来3つの弁(三尖)から成り立っていますが、生まれつきその数が少ない二尖弁の方がおり、二尖弁は一般に石灰化が早く起こることが知られており、その場合は若くして大動脈弁狭窄に進行することがあるといわれています。
僧帽弁閉鎖不全症の原因は、動脈硬化性によることもありますが、心筋梗塞や心筋炎、心筋症などの心筋疾患によって左心室の機能低下が起こり、いわゆる心不全の状態になることにともない、左心室が拡大することでうまく弁が閉鎖しなくなって、血液が逆流してしまう場合も多く見られます。また、重度の大動脈弁の狭窄症にともない、逃げ場を失った血液が逆流することで僧帽弁の閉鎖不全が生じる場合もあります。また、交通事故などで前胸部を強打したり、過度の力学的負荷が心臓に伝わってしまった場合に、弁を支えている腱索が断裂することによって生じることがまれにあります。以前は幼少期の溶連菌感染によるリウマチ熱によって弁に炎症が起こって発生するリウマチ性僧帽弁狭窄症が多く見られましたが、抗生物質の発展・使用により最近ではほぼ見られません。
放置すると心不全の原因に。
不整脈や脳梗塞を発症する可能性も
弁膜症を放置しておくと、心臓のポンプ機能を低下させてしまう心不全の原因になり、また不整脈や脳梗塞の原因にもなり得るため、薬剤でのコントロールがつかない場合は手術を考慮する場合があります。手術には胸を開いて行う開心術と胸を開かないカテーテル手術があり、壊れた弁を治すには残っている弁を有効活用する弁形成術と、弁そのものを交換する弁置換術があります。
手術は、基本的に心臓血管外科医が開心術にて目視下で治療するのが一般的ですが、最近では可能な限り創部を小さくして手術を行う低侵襲手術やロボット手術が開発されています。また、リスクの高い患者様には循環器内科医によるカテーテル治療も可能になってきています。大動脈弁狭窄症にはカテーテルで大動脈弁を置換する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)、僧帽弁閉鎖不全症には経皮的僧帽弁クリップ術(Mirta Clip)などが行われるようになってきています。これらの治療は一定の適応基準があり、すべての患者様が受けられるわけではありませんが、詳しくお知りになりたい方は、お近くの循環器内科に相談してみると良いでしょう。