かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
男性更年期障害(LOH症候群)

- 宮の沢腎泌尿器科クリニック
理事長・院長
小林 真也氏 - 1982年北海道大学医学部卒業。米国留学や北大医学部附属病院講師などを経て現在に至る。日本泌尿器科学会専門医・指導医。医学博士
中高年男性の心身の不調、日常生活の活動低下を来す「男性更年期障害」。この疾患を知り、適切なタイミングでの受診を。周囲の人々の理解も必要
心身の不調に悩む中高年男性に潜む「LOH症候群」
最近「男性更年期障害ではないでしょうか?」といって外来を訪れる患者さんが増えています。数カ月あるいは数年前から心身の不調に苦しみ、インターネットなどでこの病気のことを知り受診されるのです。
男性更年期障害というのは、女性の更年期障害を男性に当てはめた用語ですが、医学的にはLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)が正式な病名になります(LOHは、「ロー」と発音します)。40歳代以降の中高年男性で、活動意欲の減退、集中力の低下などを自覚し、以前できていたことができなくなったという症状での受診がほとんどです。そのほかの身体的症状として、疲労感や睡眠障害なども多く、精神症状としては抑うつ気分なども見られます。
これらの症状が数カ月または数年前から続いており、かつ、血液検査で男性ホルモンの低下が認められる場合にLOH症候群と診断します。
LOH症候群の症状は、精神科疾患の「うつ病」などと似ているため、症状からだけでは区別がつきません。そのため、男性ホルモンの血液検査を行います。男性ホルモンは日内変動があるので、午前中(なるべく朝に近い午前中)に採血する必要があります。
症状があっても血液検査が正常な場合は、他の病気がないかどうかを内科などで調べてもらうことが必要になります。それでも異常が見つからない時は、精神科の受診などを考慮していただくこともあります。
症状と血液検査からLOH症候群と診断され、治療を希望する場合は、ホルモン補充療法を行います。現在、わが国の健康保険で認められている男性ホルモン治療薬は注射薬のみです。症状の経過に応じ2~4週ごとに注射をします。症状の改善が認められれば継続しますが、一定期間治療後に注射を止めて経過を診ることもあります。なお、比較的若い患者さんでこれから子どもを設けたい方の場合は、別のホルモン薬による治療を検討します。また、肥満や糖尿病がある場合には、これらの治療により男性ホルモンの上昇が期待されるため、まず肥満や糖尿病の治療が優先されます。
医療の現場でLOH症候群の診断や治療ができるようになったのは比較的最近のことであり、医学的にまだ解明されていない点も少なくありません。たとえば、前立腺がんの患者さんに男性ホルモンを低下させる治療を行うことがありますが、その場合に必ずしもLOH症候群を起こすわけではありません。男性ホルモンが低下した場合に、どのような方に、どのような理由でこの症候群が起きるのかなど、今後の解明が待たれます。
「もしかしたら」と思ったら受診を
LOH症候群では内臓障害や命に関わることはめったにありませんが、日常生活が思ったように営めず、そのために精神的に苦しむことが多い疾患です。本人にとって悩みや苦痛が大きいものであるだけに、社会における疾患の認知が広がり、適切な受診につながればよいと思います。