かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
坐骨神経痛

- おおた整形外科クリニック
院長
太田 博史氏 - 1991年大阪医科大学卒業。京都大学整形外科学教室入局。2000年恵庭第一病院整形外科部長、14年恵み野病院整形外科部長を経て、23年11月開院。日本整形外科学会整形外科専門医・認定リウマチ医
腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症ほか、痛みの原因はさまざま。西洋医学的な薬で効果が得られなければ、東洋医学に基づいた漢方薬という選択肢にも目を向けてみては
治療の基本は薬物療法とリハビリ、ブロック注射でほぼ9割が緩和
坐骨神経とは、臀部から足の先まで伸びている人体の中でも最も太い末梢神経で、これが何らかの理由で圧迫されることによって、お尻から足の後側の方にかけて生じる放散するような痛みのことを坐骨神経痛と呼び、時にしびれをともなうこともあります。
主な原因としては、比較的若い世代に多い腰椎椎間板ヘルニアや、中高年に多い腰部脊柱管狭窄症が代表的な病気と言えます。腰椎分離症やすべり症が原因となることもあります。また、腰椎の検査をしても異常が見つからない方の中には、股関節の後にある梨状筋によって坐骨神経が圧迫されて坐骨神経痛が現れる梨状筋症候群が原因となっていることもあるほか、骨盤内に発生した腫瘍によって坐骨神経が圧迫されるという場合もまれにあります。
一般的な治療としては、まずは安静にしていただき、コルセットなどで腰に負担がかからないようにすることと、痛みが強い場合は、西洋医学的な薬として消炎鎮痛剤や、筋肉を軟らかくする筋弛緩薬を使うことが多いです。ただし、神経痛では一般的な痛み止めが効かないこともあるため、その場合は神経障害性疼痛の治療薬に切り替えるほか、ビタミンB12製剤や血流を改善する薬も併用します。薬物療法以外には、ホットパックや低周波電気、腰椎牽引法などで患部を温めて血流を良くしたりし、筋肉を軟らかくするなど、リハビリテーションで症状を緩和しやすくしていきます。
また、これらの方法で効果が得られない場合は、痛みの強く出る箇所に麻酔薬を注入するトリガーポイント注射や仙骨硬膜外ブロック注射を行うほか、それでも効果が得られない方には腰椎硬膜外ブロック注射を行う場合もあります。概ねブロック注射の効果としては、1回で良くなる方もいれば、数回注射を繰り返すことで少しずつ痛みが減っていくという方が多いです。しかしながら、ブロック注射でも効果が得られず日常生活に著しい支障を来している場合、また運動まひや膀胱直腸障害(排尿排便がしずらい)をともなう場合には手術が検討されます。
年齢や体質、個々の状態に応じたオーダーメイドの漢方処方にも期待
特に当院は、東洋医学的な発想に基づいた漢方薬による治療に力を入れており、薬の第一選択として処方することが多いです。一番よく使っているのが慢性腰下肢痛に対して基本処方となっている疎経活血湯(そけいかっけつとう)です。この方剤をベースに、特に血の巡りが悪い(瘀血=おけつ)方には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を、下肢の冷えや、夜間頻尿といった腎虚(腎臓などの機能低下)の症状をともなう場合には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)や八味地黄丸(はちみじおうがん)を、その方の年齢や体質、体のさまざまな状態などに応じて方剤を選び、それらを組み合わせて処方しています。
また、坐骨神経痛と思われていた痛みの中には、筋膜性疼痛症候群(MPS)による痛みであることもしばしばあるようです。これは筋肉と、それを包んでいる筋膜の癒着によって筋肉が動かせにくくなることで痛みやこりを生じさせるというものです。この病態に対しては神経障害性疼痛の薬を使ってもあまり効果は期待できません。筋膜性疼痛症候群にはトリガーポイント注射が有効ですが、漢方薬にも筋肉の緊張を緩めて血流を改善するなど十分に効果が期待できる方剤もあります。坐骨神経痛をはじめ、西洋医学的な薬で効果が得られないという方の中には、漢方薬で効果が得られたという方も少なくありませんので、なかなか良くならない痛みでお悩みの方には、漢方薬という選択肢もあることを知っていただければと思います。気になる症状があれば、ご相談ください。