かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
変形性膝関節症

- あさひかわ整形外科・スポーツクリニック
院長
佐々木 祐介氏 - 2003年旭川医科大学医学部卒業。同大整形外科学講座入局。同大助教、講師などを経て、23年10月2日開院。日本整形外科学会認定専門医。日本体育協会認定スポーツドクター。日本障がい者スポーツ協会認定スポーツ医ほか。医学博士
動き始めの痛みは変形性膝関節症の特徴。運動療法で筋力をつけることで手術をしなくても痛みが改善する場合も。気になる症状があれば早めに専門医に相談を
痛みの原因は関節以外にある場合も。正しい診断と早期治療が大切
関節症は加齢性の疾患で、不可逆性と言って元に戻ることはありません。一般的に30歳を越えたころから膝の中にある軟骨や半月板は変化し始めるといわれ、50歳を過ぎたころに起こる膝の痛みは半月板の損傷や軟骨の摩耗が原因だと思われます。
関節症の症状の特徴としては、スターティングペインと言われる、起床直後や立ち上がって歩き始める時などの動き始めの痛みがあります。特に半月板が痛んでくると、痛みだけでなく、引っ掛かるような症状をともなうことがあります。また、膝を曲げた状態の階段の上り下りや、しゃがんだり立ったりということを繰り返すなど、膝に負荷を多くかけてきた方や、現在も膝に負荷が掛かることを繰り返しているような方は、痛みが出やすかったり、なかなか痛みが取れないという傾向があります。
その一方、変形性膝関節症と診断されて治療を受けているのに、なかなか痛みが取れないという方の中に、実は単純に膝の周りの筋肉(筋・腱)が炎症を起こしていたり、筋力が足りないために痛みが出ているということがあります。筋・腱の痛みには関節症と別のアプローチが必要です。また、半月板の評価にはMRIによる画像診断が有用ですので、主治医とよく相談してみると良いでしょう。
治療法は、薬物・装具・運動による保存治療から再生医療、手術まで
治療は、大きく分けて保存治療と手術になります。保存治療は、一般的に内服薬や関節注射などの薬物療法が行われますが、世界的な医学的根拠に基づくと、リハビリテーション(運動療法)によって筋力をつけることが一番有効だとされています。また、膝の状態によっては運動療法が難しい場合もあります。特に日本人に多いO脚の場合、膝の内側の軟骨が減りやすく、筋力が落ちるとさらにO脚を助長することにもなるため、O脚を治すことも必要となります。そこで用いるのが足底板(インソール)や膝のサポーターで、これらを使った装具療法によって膝の土台となる足元を正しい形状に導き、立ち姿勢や歩き方を正すことで、膝関節の悪化や痛みを解消することも有用です。このように保存治療では薬物・装具・運動を三本柱に、特にスポーツクリニックの当院では、運動療法を積極的に取り入れています。
さらに最近のトピックとして、一般的な保存治療では効果が得られないが手術は受けたくないという方に対して、再生医療が選択肢の一つとなっています。当院では、自費診療であることと、重症度によっては十分に効果が得られないこともあるため、軟骨の状態をしっかりと評価した上で適応を決めて、効果の可能性など十分に患者さんと相談しながら行っています。
手術は、初期から中期の軽度な症状に対しては高位脛骨骨切り術が有効です。自分の膝を温存でき、運動される方や重労働など活動度の高い仕事をされている方にお勧めです。次の段階としては、膝関節の状態によって、悪くなっている部分だけを人工物に取り換える単顆置換型人工膝関節置換術と、中期から末期の症状に対しては全てを取り換える人工膝関節置換術となります。人工関節の術後でも負荷が低い運動であれば許可できるので、特に当院では関節症末期の状態でも運動を続けたいという患者さんが多いため、患者さんの希望を考慮し、治療法のメリット・デメリットについて十分に説明し、相談しながら治療法を選択していただいています。
最後に、変形性膝関節症の予防として、治療でもある筋力を落とさないための運動と、体重を一定以上に増やさないということをお勧めします。筋力は60歳代や70歳代からでもつけることはできます。どのような運動をしたら良いか分からないなど、お困りの事があれば運動器の専門医に相談してみると良いでしょう。