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かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状

脂肪肝

医師画像
かさい内科消化器肝臓クリニック
院長
葛西 和博
1994年岩手医科大学医学部卒業。イムス札幌消化器中央総合病院副院長などを経て、2021年11月開院。日本消化器病学会、日本肝臓学会、日本消化器内視鏡学会、日本救急医学会各専門医ほか。医学博士

脂肪肝はがん化のリスクを高める怖い病気。採血でGPT(ALT)が30を超えたら一度肝臓専門医のいる病院の受診を。肥満や生活習慣病も重要なリスク因子

脂肪肝の中でもがん化のリスクが高いNASHの早期診断・治療が重要

 脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまり、肝機能が徐々に損なわれていく病気です。私が医師になった今から30年くらい前は「脂肪肝は病気ではない」とも言われたり、診察でも「食事に注意し、太り過ぎないようにしましょう」と言われる程度であることが一般的でした。
 しかし、この10~20年くらい前から脂肪肝は肝硬変や肝臓がんに進行する可能性がある病気であるということが分かり、中でも脂肪肝に炎症を起こすNASH(非アルコール性脂肪肝炎)はがん化する可能性が高いといわれています。昔は肝臓がんの患者さんの85%くらいはB型やC型の肝炎ウイルスが原因で、脂肪肝はわずか数%でしたが、最近では肝炎ウイルスの割合が減り、脂肪肝が40%近くまで増えており、その意味でも「脂肪肝は怖い病気」ということを強く言いたいのです。
 脂肪肝の診断は、主に血液検査と超音波(エコー)検査で行います。エコー検査については、肝臓と腎臓のコントラストの差によって診断し、昔は検査をする医師や検査技師の主観で評価されていましたが、近年では特殊な装置によって周波数依存性減衰(ATI)という脂肪肝の状態を数値化することができるようになったことから、客観的指標に基づいて、より正確な診断が可能となっています。
 さらにNASHに関しては、これまで肝臓に針を刺して採取した組織を調べる検査(肝生検)で診断を確定してきました。そしてNASHと診断された方は、定期的に経過観察するということが大学病院や総合病院などでは一般的に行われてきました。しかし、NASHではない脂肪肝がNASHへ移行することもあり、脂肪肝全体もしっかり診る必要があります。
 ただ、全ての脂肪肝に対して肝生検まで行うことはほぼ不可能なことから、最近では、肝生検に代わる評価方法として、エコー装置で肝臓ががん化する大きな要因となる肝臓の硬さを評価する肝硬度測定検査が主流になりつつあります。肝生検のように体を傷つけることなく、患者さんの負担も少ないため、当院では脂肪肝と診断された方には必ず肝硬度を測定するようにしています。ただし、肝硬度測定を行えるエコー検査装置はどこにでもあるものではありません。肝臓の専門病院では導入されていると思いますので、脂肪肝と診断された場合には、一度肝臓の専門医のいる病院で診てもらうことをお勧めします。
 脂肪肝の治療は、採血による肝機能の低下をはじめ、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が脂肪肝の原因となることが多いので、運動療法や食事療法、あるいは投薬によって生活習慣病をコントロールすることで脂肪肝を改善していきます。

肝臓は沈黙の臓器。GPT(ALT)が30を超えたら専門医に相談を

 最後に、2023年に日本肝臓学会の総会で「奈良宣言」というものが提唱されました。これは脂肪肝を基礎疾患とする肝臓がんなどの肝疾患が年々増加していることから、肝疾患の早期発見・早期治療のきっかけとして、採血でGPT(ALT)の数値が30を超えたら、かかりつけ医を受診し、必要に応じて消化器内科などで精密検査を受けましょうというものです。
 脂肪肝は初期の段階ではほとんど自覚症状はありません。疲れやすい、体がだるい、食欲がないなど、肝疾患の一般的な症状が現れた場合は、すぐにでも治療する必要があると思います。定期健診などの採血でGPT(ALT)が30を超えている方、さらに標準体重を超えている方、生活習慣病のある方はより気を付けた方が良いと思いますので、肝臓専門医の立場としては、やはり一度は肝臓専門医のいる病院を受診してほしいと思います。

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