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かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状

もの忘れ

医師画像
市立病院前老年内科メモリークリニック
院長
中野 正剛
1992年東京医科大学卒業。国立精神・神経センター武蔵病院、福岡大学医学部神経内科学教室講師などを経て、2022年11月1日開院。日本老年精神医学会、日本認知症学会各専門医ほか。医学博士

「もの忘れが多くなったのは、やはり年のせい」という自己判断は禁物。治療の機会を逸することのないよう、気になる症状は一度専門医に相談を

65歳以上の5人に1人が認知症に。MCIを含めると7人に2人へ増加

「最近物事を忘れっぽい」「物をなくすことが多くなってきた」など、これらの症状に対して「年のせい」と考えられる方が一般的に多く、昔は一般内科などでも「加齢によるもの忘れ」ということをよく言われました。しかし、それは正しい判断ではありません。近年では、認知症ではありませんが、以前に比べて認知機能が低下しているものの、日常生活は問題なく送ることができている、認知症の一歩手前の状態にある軽度認知障害(MCI)というものがクローズアップされ、MCIに対する治療法も登場していますので、その治療の機会を逸する可能性もあるため、「年のせい」といった自己判断はしないでください。そして認知症の症状は、もの忘れだけではありませんし、原因もさまざまです。誤った診断や間違った薬が処方されると、かえって副作用などで体調を崩す場合もありますので、正しい診断と適切な治療につなげるためにも、60歳代、あるいは50歳代後半でも、もの忘れが気になるようであれば、一度は専門の医療機関を受診することが大切と言えるでしょう。
 厚生労働省の調べによると、認知症は年々増加しており、今年2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれ、さらにMCIを含めるとその数は7人に2人にまで増えるともいわれています。そして、MCIと診断された方のうち、約10%の方が1年後には認知症へと移行してしまうといわれています。その意味でも、気になる症状があれば早めに医療機関を受診するということが必要なのです。かかりつけ医の先生がいる方は、その先生にまず相談してみてください。そうすることで必要に応じて専門の医療機関を紹介してくれると思います。また、かかりつけ医がいない方は、札幌市医師会が設置する「在宅医療・介護・認知症サポートセンター」や、札幌市が開設する「認知症コールセンター」、あるいは居住地域の「地域包括支援センター」などに相談してみるのも良いでしょう。
 当院では「もの忘れ外来」を開設していますが、受診される患者さんの中にも、かかりつけ医の先生からは「年のせいだから気にしなくていい」と言われたが「やはり心配で」と言って相談にいらっしゃる方はまだまだ少なくありません。当院では医師による問診をはじめ、心理士による心理検査、画像検査などを行い、その結果から、気になる症状が通常起こり得る加齢による記憶能力の低下なのか、MCIや初期の認知症なのか、あるいは認知症とは別の疾患によるものなのか総合的な診断を行い、ご本人やご家族と話し合いながら、必要に応じて適切な治療ができる医療機関へ紹介しています。

MCI予防のためにも社会交流、知的行動習慣、有酸素運動が大切

 認知症は予防することはできません。しかし、MCIに関してはさまざまな研究が行われ、1年で認知症に移行する方が5~15%とされる一方、1年で16~41%の方が健康な状態に戻ったという報告もあります。そこで当院では、MCIと診断された方に対して、認知症に進行しないための3つのポイントをお伝えしています。1つは社会交流で、家族以外の方と会って話をする機会を週に1日以上設けること。2つ目は知的行動習慣で、映画や観劇、美術館などの鑑賞、趣味活動、新たな事へのチャレンジなどを毎月繰り返す。3つ目は週3回以上の有酸素運動です。高齢のため難しいという方には、しりとりや計算をしながら歩いてみるといった「ながら歩き」というものも推奨されています。ただ北海道の場合、冬場は転倒などの心配もあるので、週1回でも大きなショッピングモール内を散策しながら歩いてみるというのでも良いかと思います。これらはMCIではない健康な方にも効果が期待できるのでお勧めです。

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