かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
めまい

- のむらひふ科耳鼻咽喉科
甲状腺クリニック
院長
野村 研一郎氏 - 2001年旭川医科大学卒業。同大耳鼻咽喉科・頭頸部外科入局。道内中核病院勤務、旭川医大耳鼻咽喉科助教、講師を経て、19年12月開院。日本耳鼻咽喉科学会専門医・補聴器相談医
適切な診断を受けることで、めまいの原因を特定し、より効果的な治療を行うことが可能。正しい知識を持ち、不安を軽減することが、回復への第一歩
めまいの種類はさまざま。
適切な診断と検査で原因の特定を
めまいは、その原因や種類によって対処法が異なります。めまいを引き起こす疾患には、内耳の異常、神経系の障害、ストレスなど、さまざまな要因が関与します。その中でも、内耳の異常が原因となるめまいが約8割と最も多いとされています。
めまいの診断には、詳細な問診が重要です。めまいの持続時間、回転性かどうか、難聴や耳鳴りの有無、発作の頻度などを調べます。その後、以下の検査が行われることが一般的です。メニエール病などの内耳疾患を見極めるために行う「聴力検査」。赤外線CCDカメラを用いて、眼球の揺れを観察し、平衡機能の異常を確認する「眼振検査」。立っているときのふらつきを測定し、バランス能力を評価する「重心動揺計」。最近保険適用された検査で、頭の動きと目の動きの連動を分析し、三半規管の働きを調べる「ビデオヘッドインパルス検査」があります。
めまいの種類によって症状の現れ方、
診断と治療の方法も異なる
「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」は、最も頻度の高いめまい疾患で、内耳の耳石が剥がれて三半規管に入り込むことで発症します。特徴的な症状は、頭の動きによって短時間の回転性めまいが起こることです。特に、起床時にめまいを感じることが多く、繰り返し発作が起こる場合があります。治療は、耳石を元の位置に戻すための「めまい体操」(エプリー法やブラント・ダロフ法)が効果的です。そのほか投薬治療(抗めまい薬など)を補助的に使用したり、肩こり等の生活習慣の改善も再発予防に有効です。
「メニエール病」は、内耳の水ぶくれ(内リンパ水腫)が原因で発症し、めまい発作と難聴を繰り返す病気です。発作が起こると、回転性めまいが数時間から半日続き、耳鳴りや耳閉感をともなうことが多いです。生活習慣の改善(塩分制限、水分摂取、十分な睡眠、ストレス管理)が基本で、薬物療法(利尿剤、抗めまい薬、漢方薬)や、全国的に普及が進んでいる中耳加圧療法により、めまい発作の頻度を軽減できます。
「前庭神経炎」は、ウイルス感染が原因と考えられ、突然の強い回転性めまいが数日間続くのが特徴です。発症時には、おう吐をともなうことが多く、入院が必要になることもあります。急性期は安静が必要ですが、回復期には積極的なリハビリテーション(バランス訓練)が重要です。めまいがあってもできるだけ早く動き始めることで、脳が平衡感覚を取り戻しやすくなります。
「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」は、2018年に新たな疾患分類として認定された慢性的なふらつきや不安定感を特徴とするめまいです。発症のきっかけとして、過去のめまい疾患やストレスが関与していることが多いとされ、特定の状況でめまい感が起こりやすくなります。認知行動療法(CBT)を取り入れ、不安を軽減しながら症状を改善します。また前庭リハビリテーションを続けることで、ふらつきや不安定感を徐々に克服していきます。
めまいは、正しい診断と適切な治療を受けることで改善できる病気がほとんどです。しかし、めまいを経験した方の中には、「怖くて動けない」「まためまいが起こるのでは」と不安を抱え、過度に安静を取ることで症状が長引くケースも少なくありません。特にBPPVや前庭神経炎では、「めまいを怖がらず、できるだけ早く動き始めること」が治療の鍵となります。適度な運動を続けることで、脳がバランスを取り戻し、症状が改善することが多いのです。最近では、VR技術を活用しためまい検査や、メニエール病の中耳加圧療法の普及により、診断と治療の選択肢が広がっています。めまいに悩んでいる方は、ぜひ専門医を受診し、適切な診断を受けた上で治療を進めることをお勧めします。