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脂質異常症

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札幌医科大学
循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座教授
古橋 眞人
1995年札幌医科大学医学部卒業。同大内科学第2講座入局。2022年より現職。日本内科学会認定医・総合内科専門医・指導医。日本循環器学会専門医。日本内分泌学会、日本動脈硬化学会各専門医・指導医ほか。医学博士

動脈硬化性疾患のリスクを高める「脂質異常症」。特に遺伝的素因による「家族性高コレステロール血症」は早期の診断と治療介入が重要

治療の基本は食事と運動。LDL-Cや中性脂肪に有効な治療薬も多数

 脂質異常症には、悪玉と呼ばれるLDLコレステロール(LDL-C)が高いタイプ、善玉と呼ばれるHDLコレステロール(HDL-C)が低いタイプ、中性脂肪(TG)が高いタイプの大きく3つがあります。高LDL-C血症と高TG血症は動脈硬化の原因となり、さらに、低HDL-C血症と高TG血症は内臓脂肪蓄積とともにメタボリック症候群と関わります。
 特に動脈硬化は、簡単に言えば血管の老化であり、脳の血管で起これば脳梗塞や脳出血、心臓の冠動脈で起これば狭心症や心筋梗塞、足の血管で起これば閉塞性動脈硬化症などを発症する大きな要因となるため、これらの重篤な疾患を起こさせないためにも動脈硬化を抑制することが必要で、そのためにも脂質異常症を改善することが重要となるのです。
 脂質異常症の原因として考えられるのは、一つに欧米的な脂質の多い食生活だと思われます。もう一つは、遺伝的素因で脂質が高くなりやすい方がいるということです。
 治療は、基本的に食事療法と運動療法が重要となり、これらを行っても十分に効果が得られない場合には薬物療法を選択します。薬物療法は、主にLDL-CとTGを下げることを目的に行います。
 LDL-Cに対しては、内服のスタチン系薬「HMG‐CoA還元酵素阻害薬」や「エゼチミブ」が有効なほか、最近では、「PCSK9阻害薬」という注射薬も登場し、治療手段は増えてきています。TGに対しては、フィブラート系薬が代表的な治療薬として使用されているほか、より選択的に脂質代謝を改善し、副作用も起こりにくい「選択的PPARαモジュレーター」という薬も最近使えるようになりました。

健康寿命に大きく影響する「FH」
動脈硬化検査の積極的実施も大切

 脂質異常症の中でも、特に注意しなければならないのは、遺伝的素因による家族性高コレステロール血症(FH)」です。生まれつき血液中のLDL-Cが増えてしまう病気で、過食や運動不足、肥満などを素因とする脂質異常症であれば、60~70歳代になると心筋梗塞や脳卒中を起こす可能性が高くなるといわれていますが、FH場合には、30~40歳代で心筋梗塞や脳卒中を起こすといわれ、FHではない方とでは、寿命にも10歳くらい差が出るといわれていますので、FHの早期発見、必要に応じて早期の治療介入や、動脈硬化性疾患の検査をすることが重要と言えます。
 FHの診断基準は①未治療時のLDL-Cが180mg/㎗以上。②手背・肘・アキレス腱肥厚などの腱黄色腫、あるいは皮膚結節性黄色腫。③FH、あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(両親・兄弟姉妹/男性55歳未満、女性65歳未満で発症)があるかどうかで判断します。これら3つのうち2つ以上当てはまれば診断することができ、2つ以上なくても、LDL-Cが250mg/㎗以上の場合や、②または③の条件を満たし、LDL-Cが160mg/㎗以上の場合はFHを強く疑います。
 TGにもいろいろなタイプがあり、LDL-Cと両方が高ければ動脈硬化疾患になりやすいことは知られていますが、TGだけが高い方は、実は動脈硬化性疾患などのリスクはそれほど高くはないというデータがあります。むしろ問題になるのは、TG500mg/㎗以上では急性すい炎の発症や、それにともなう糖尿病の発症、重症の場合には命に関わることもあるということです。
 いずれにしてもLDL-CやTGは高ければ下げることが重要で、中にはFHという、より危険な病態もあることを知っていただき、日々の過食や運動不足に気を付け、必要に応じて薬も使いながら、LDL-CやTGが高くない状態を長く続けるということが大切だと思います。

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