かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
糖尿病
- 札幌医科大学
細胞生理学講座/
循環器・腎臓・代謝内分泌
内科学講座准教授
佐藤 達也氏 - 2005年札幌医科大学医学部卒業。同大内科学第2講座入局。24年より現職。日本内科学会認定医・総合内科専門医・指導医。日本循環器学会専門医。日本糖尿病学会専門医・指導医ほか。医学博士
「糖尿病」は、長く付き合うこととなる慢性疾患の一つ。病気の本質を正しく理解し、定期的かつ継続的に治療を続けることが大切
日本人の約6人に1人
他人事ではない「糖代謝異常」
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。ご飯を食べることによって上昇する血糖値は、すい臓から出るホルモン「インスリン」の働きによって一定の範囲に抑えられていますが、このインスリンの働きが悪くなることによって血糖値が高くなってしまうのが、糖尿病などの糖代謝異常の基本的な病態です。簡単に言うと、すい臓からインスリンが出なくなるのが「1型糖尿病」、運動不足、肥満、炎症などの要因によりインスリンが効きにくくなるのが「2型糖尿病」です。このほかにも遺伝子変異や妊娠による糖尿病もあります。
糖尿病は、血糖値の上昇にともない尿の中にも糖が出ることから名付けられた病名です。「尿=排泄物」というマイナスのイメージを持たれている方、生活習慣の乱れた「だらしない人の病気」と誤解されている方も多いのですが、生活習慣が乱れている方の全員が糖尿病を発症するわけではありません。糖尿病は、「糖代謝異常という慢性疾患」であり、「だらしない人の病気」ではないということを、糖尿病の人もそうでない人も、正しく理解することが必要です。患者さん自身も「薬に頼らず食べ過ぎないように頑張ります」とおっしゃる方が多いのですが、糖尿病は「慢性疾患」ですので、短期間の「頑張り」だけでは効果がありません。正しく適切な「治療」を、早期から、継続的に受け続けることがとても大事なのです。
テクノロジーの進化や新薬など
劇的に進歩した糖尿病治療
治療の基本は、食事と運動を中心とするライフスタイル・マネジメントですが、その上で、適切な治療を受け、神経障害、網膜症、腎症の三大細小血管合併症をはじめ、心血管合併症を発症しないよう、定期的かつ継続的に通院と治療を続けていくことがとても大切です。高血糖だけではほとんど自覚症状がなく、良い治療法がなかった時代には、健康寿命はかなり短くなってしまう非常に厄介な病気でした。しかし、糖尿病の治療法はこの数年で劇的に進歩し、適切な治療が受けられれば健康寿命も糖尿病ではない方とほとんど変わらなくなりました。さらに最近では、血糖値の「見える化」が進み、腕やおなかに専用センサーを張り付けることで2週間くらいの連続した血糖値の推移が推定できる方法の登場など、患者さん自身でセルフマネジメントができるようになり、血糖値の管理法の選択肢も増えつつあります。
治療法のトピックスとしては、血糖値の改善が得られなくても、心臓や腎臓を守る作用が期待できる「SGLT2阻害薬」や、インスリンの分泌を促しつつ食欲の抑制が期待できる「GLP‐1受容体作動薬」の有効性が確立されてきました。そのほかにも多様なインスリン注射製剤やインスリンポンプ、体重や病態に応じた有用な薬剤が登場しています。
肥満による糖尿病に関しては、従来の開腹手術に比べて低侵襲である腹腔鏡を使って胃を小さくする「肥満減量手術」も注目されています。糖尿病の寛解(かんかい)率の増加も、健康寿命の延長も期待されており、有望な治療法の選択肢の一つです。
このほかにも、まだ保険診療として上市されていないものとして、1型糖尿病に対する抗体治療や免疫抑制薬の研究、毎日ではなく週1回の注射で効果が期待できるインスリン製剤への期待があります。さらに、血糖の変動に応じて自動的にインスリンが投与されるインスリンポンプ療法の開発など、さまざまな研究が進められています。
糖尿病診療は劇的に進歩しています。糖尿病治療のゴールは、合併症に苦しむことなく健康寿命をまっとうできるようにすることです。糖尿病に対する正しい認識を持ち、定期的かつ継続的に治療を続けていただくことがとても大切です。