かかりつけ医が伝える、あの病気、この症状
腱鞘炎

- だい整形外科クリニック
院長
松本 大氏 - 2003年札幌医科大学卒業。北海道大学病院など道内主要病院勤務を経て、18年12月3日開院。日本整形外科学会専門医
手首の痛み、手指の曲げ伸ばしに違和感があれば腱鞘炎の疑いも。長く放置すると手術でも元に戻らない場合もあるため、早めに医療機関の受診を
加齢や使い過ぎのほか、女性ホルモンの変化も大きな原因の一つ
腱鞘炎とは、主に手首や手指といった手の骨と筋肉をつないでいる腱と、腱を包んでいるトンネル状の組織である腱鞘と呼ばれる鞘(さや)の間で摩擦が生じることによって炎症が起こる病気です。原因は、加齢や使い過ぎによって腱鞘自体が厚くなりトンネルが狭くなることによって腱と腱鞘の摩擦が強まることで炎症を起こしやすくなるわけです。また最近では、女性ホルモンの変化も大きく関わるということが分かってきていて、特に更年期時期の女性に多発しやすいほか、妊娠・産後にも発症しやすいといわれています。一方、男性の場合は手を使うことの多い職業に就いている方に多く、手首の腱鞘炎では金づちで釘を打つ大工さんや、フライパンを振る料理人さんなど、手首を使う細かい動きを繰り返すような職業の方ほど、腱鞘炎を発症しやすいと言えます。
また、腱鞘炎にはいくつかの種類があり、症状も炎症を起こす場所によって多少は異なります。腱鞘炎の代表例として一番多いのは「ばね指(弾発指)」で、指の付け根にある腱鞘が炎症を起こしている病態です。特徴的な症状としては、指を曲げ伸ばしするときに生じる痛みと、特に朝起きたときに指の関節が引っかかっているように曲げ伸ばしがしづらく、力を入れて伸ばそうとすると指がカクンと跳ねるように伸びることから、この動きがバネのようだということで「ばね指」と呼ばれています。その次に多いのが、手首の親指の付け根あたりに痛みが生じる「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」と呼ばれる腱鞘炎で、かなり強い痛みをともなうのが特徴です。
中等度でも9割以上はステロイド注射で寛解。再発例は手術も選択肢
腱鞘炎はレントゲン上では所見が見られません。そのため、主に身体所見と、患者さんが訴える症状から診断を付けます。
治療は、軽度であれば手を使わないでいると症状が落ち着く方もいますので安静を保つことと、湿布などの外用剤もある程度は有効です。中等度以上の場合には、安静と外用剤ではなかなか改善しないため、炎症を抑えるためにステロイド注射を行います。患者さんの9割以上はステロイド注射で症状は治まりますが、なかなか治らない方や、一度は治ったとしても再発してしまう方もいらっしゃいますので、その場合には手術治療も選択肢となります。
手術は、腱鞘炎を起こしている場所により違いはありますが、炎症を起こしている腱鞘を切って広げてあげるという手術で、20~30分くらいで済む日帰り手術が一般的です。ちなみに当院では、再発を3回以上繰り返す方に、ご本人の年齢や希望を加味した上で手術治療をご提案し、必要な場合には、近隣の経験豊富な信頼できる施設を紹介しています。
特に「ばね指」は、悪化すると完全に曲げ伸ばしができなくなってしまいます。指の関節に引っ掛かりがあっても曲げ伸ばしができていれば様子を見てもいいでしょうが、曲げ伸ばしの可動域が制限されるように感じた場合は、早めに医療機関の受診をお勧めします。曲げ伸ばしが制限されている状態が長く続いてからでは、注射や手術で痛みはある程度は抑えられても、完全に指を曲げ伸ばしできないことが多いので、少しでも気になることがあれば一度医療機関に相談してほしいと思います。
最後に、腱鞘炎の原因の一つといわれる女性ホルモンの変化に関して、エクオールという大豆から作られた女性ホルモン類似物質が腱鞘炎の痛みを抑えたり、再発を予防する効果など、女性の手のトラブルに有効性があると報告されていて、最近のトピックとなっています。サプリメント(自費)としてドラックストアなどで市販されているほか、当院でも扱っていますので、関心のある方はご相談ください。