診療室からのメッセージ
認知症
- 沼ノ端内科・
脳神経クリニック
院長
越智 龍太郎氏 - 2010年札幌医科大学医学部卒業。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。日本神経学会神経内科専門医・指導医。日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医ほか
もの忘れなど認知機能の低下のほか、意識障害や歩行障害など、認知症以外の病気が原因の場合も。気になる症状は早めに専門医に相談を
新薬も登場。LDLコレステロールの
管理による予防効果にも期待
認知症とは、さまざまな病気を原因として記憶力や判断力といった認知機能が低下して、社会生活に支障を来す状態を言い、高齢化の進展にともない年々増加傾向にあります。
認知症の分類として一番多いのはアルツハイマー型認知症です。これは長い年月をかけて脳内にたまったアミロイドβなどの異常なタンパク質が、脳に萎縮が起こすことが原因とされています。次に多いのが脳梗塞などの脳血管障害が原因となる血管性認知症で、その次がα-シヌクレインという異常なタンパク質が蓄積してレビー小体を形成し、幻視、パーキンソン症状、認知症などを呈するレビー小体型認知症で、これら3つが認知症の代表的なものです。
認知症の治療は、原因となっている病気によって異なりますが、原因が解明されていないため根本的な治療法がない病気もあり、その意味でも早めに正確な診断を付け、適切な治療方針を立てることが大切です。
認知症の治療薬としては、これまでアルツハイマー型認知症に対して内服薬3剤と貼付剤2剤が保険適用(内1剤はレビー小体型認知症でも適用)されていますが、これらの治療薬はあくまでも症状の進行を緩和できる可能性があるというものでした。そのような中で、新たにアルツハイマー病の原因とされている脳内にたまったアミロイドβを除去することで、認知症の前段階であることがある軽度認知障害と軽症の認知症の進行を遅らせることが期待される抗アミロイドβ抗体薬として、23年12月にレカネマブ、24年9月にドナネマブの国内使用が認可され、最近のトピックスとなっています。
治療できる認知症に対する
正確な診断と適切な治療も重要
また24年に有名な医学雑誌「ランセット」の論文で、認知症の後天的リスク第1位は中年期の高LDLコレステロール(LDL-C)血症であると発表され、脂質異常症が認知症の発症因子として認められました。逆に考えると、LDL-Cを下げることで認知症のリスクを下げることができると言えます。LDL-Cが高い方は、放置することで動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高くなるため、これまでは中等度から高度の方は最初から治療を、軽度の方はまず生活習慣改善を、と指導してきましたが、前述の論文が発表されてからは、軽度の方でも認知症の予防を目的としてLDL-Cを下げるための治療を行った方がよいと治療方針も変わっています。
最後に、神経内科専門医としては「治療できる認知症を取りこぼさない」ということも重要だと考えています。例えば、ビタミンB1・B12・葉酸などのビタミン欠乏は、認知症症状や歩行障害などの神経症状を呈しえますが、ビタミン補充により治療が可能です。脳脊髄液が脳の間の空間にたまることで生じる正常圧水頭症は認知症・歩行障害・排尿障害を三徴としますが、脳脊髄液を抜く手術をすることで治療が可能です。てんかんはけいれん発作のイメージが強いかと思いますが、けいれんはしていないけれど、てんかん発作がひどい状態で、一見変性疾患の認知症のように見える状態もあり、抗てんかん薬による治療で改善します。うつ病でも一見認知症のように見えることがあり、適切な精神科治療で改善する場合があります。これらは脳の神経細胞の変性による認知症と異なり、適切な治療によって改善する可能性があり、見落とすことなく治療につなげる必要があります。
認知症は現代の医療ではまだまだ元の状態にまで治せる病気ではありませんが、予防することは期待できる時代になりつつあります。介護保険などの行政サービスなどを含め、さまざまな支援が利用でき、ケアマネジャー・訪問介護・訪問看護などと協力しながら、主治医として積極的な関わりを持つことも可能です。

