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心筋梗塞

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札幌医科大学
内科学講座
循環病態内科学分野 講師
國分 宣明
1999年札幌医科大学医学部卒業。同大内科学第2講座入局。2025年4月1日より現職。日本内科学会内科認定医・総合内科専門医。日本循環器学会、日本心血管インターベンション学会、日本救急医学会各専門医ほか。医学博士

動脈硬化の原因となる脂質異常症、高血圧、糖尿病などの管理と、喫煙や肥満の改善が大切。最悪を防ぐためにも胸の症状は放置せず、一度は病院の受診を

血管が細く狭くなることで現れる狭心症。血管が血栓で詰まることで急激に起こるのが心筋梗塞

 心臓とは筋肉の塊で、収縮を繰り返すことで全身に血液を送るポンプの役割を果たしている臓器ですが、心臓そのものも血液によって酸素や栄養分をもらって動いているわけです。その心臓に血液を送っている血管が、心臓の表面を覆うように走っている3本の冠動脈となります。この冠動脈が細くなったり、詰まってしまったりすると、その先に血液が流れなくなるため、その先の筋肉が血液不足に陥ってしまうわけです。これが虚血性心疾患という病気です。
 血管が細くなって血液が足りなくなり、酸素不足に陥ってしまうことで胸が痛くなったり、苦しくなったりという胸の症状が現れるのが狭心症と呼ばれる病気です。
 さらに、血液の流れが滞っている状態から一歩進んで、冠動脈の血管にかさぶたのような物、いわゆる血栓が急激にできて、血管の内腔(血液の通り道)を詰まらせてしまうと、その先に血液が完全に流れなくなるため、心臓の筋肉(心筋)は酸素も栄養分ももらえないために死んでしまう(壊死)ことになるのです。これが心筋梗塞という病気です。

脂質異常症、高血圧や糖尿病、喫煙、肥満などによる動脈硬化が大きな原因

 原因は、通常の血管の内腔に粥腫(じゅくしゅ)と言う、コレステロールなどの脂質が沈着し、それがたまっていって血管の内腔がだんだん狭くなっていくためで、これが動脈硬化と呼ばれる状態です。さらに、何らかの原因で粥腫を覆っている膜に亀裂が入ってしまうと、人間に備わっている機能によって、その亀裂を修復しようとして血栓ができてしまうのです。そのことによって数分から数十分のうちに血の塊が作られてしまうことで血流が止まってしまうという、心筋梗塞を起こす状態ができてしまうのです。
 その意味では、動脈硬化が進む原因となる脂質の沈着を起こさせないためにも、コレステロール値が高い脂質異常症の人は注意が必要となるわけです。また、動脈硬化は加齢にともなっても進みますが、高血圧や糖尿病、あるいは喫煙は年齢を超えて動脈硬化を進展させるほか、その上流には肥満という問題もあり、これらが集積することで血管を傷つけ、動脈硬化を促進させてしまうということも知っておいていただきたいと思います。

胸の症状は短時間で致死的転機をたどる場合も。一過性でも一度は病院の受診を

 狭心症の場合は血管が狭くなっていても血液が流れている状況ですので、血管が75%くらいまで詰まってもギリギリ大丈夫だといわれています。しかし、血流が25%くらいまでに滞ってしまうと症状が出やすいといわれています。特に症状が出やすくなるのは、心臓がたくさんの血液を必要とするときで、簡単に言うと、全身に血液を送るポンプの機能が一生懸命に頑張ろうと働くことで、心拍数や血圧が上がるようなときに症状が出やすくなります。
 例えば、日常生活で早歩きをしたり、重い物を持ったり、運動や労作(労働)時に胸の症状が出て来やすく、これらを労作性狭心症と呼んでいます。しかし、労作性狭心症の場合は、労作で誘発される胸の症状のため、休むと心拍数も血圧も下がってきて、胸の症状も徐々に治まっていき消えていくので病院を受診しない人が少なくないのです。そのときに病院で検査を受けていただければ、本当に血管が狭くなっているのか、狭くなっている血管がどこに何カ所あるのかなどを確認できれば、重症度の判断も治療方針も変わってきますので、そういった胸の症状があったときには、一過性のものであったとしても、やはり病院を受診することをお勧めします。
 また、休んでも胸の症状が治まらない、痛みの程度が強くなってきた、痛みの頻度が増えてきたという場合は、労作性狭心症からさらに一歩進行している状況にあるかもしれません。さらに、運動や労作時でもないのに同じ症状が出たという場合も、血液の通り道がもう1%しか残っていないなど、血の塊によってほぼ完全に詰まりかかってしまっているという状態という可能性がありますので、速やかに病院を受診するか、場合によっては救急車を呼んでいただいていいと思います。
 特に、ご高齢の人では、症状を感じにくい場合もあるほか、糖尿病で神経障害という合併症を発症している人も、症状を自覚できず、心筋梗塞による強い症状で気付いたり、不整脈などの他の症状で初めて分かるという人もいらっしゃいます。心筋梗塞を発症した患者さんの中には、放散痛と言って、喉や顎、肩の痛みを訴える人もいらっしゃいますので、このことも覚えておくといいでしょう。
 特に胸の症状は、心筋梗塞だけでなく、極めて短時間で致死的転機をたどるという病気もいろいろと考えられますので、やはり自己判断はせず、早めに病院を受診していただきたいと思います。

早期であればカテーテル治療でほぼ完治。後遺症も最低限に抑えられ予後も良い

 心筋梗塞の治療を始めるにあたって、まずは血管の状態が一番よく分かる方法としてカテーテル検査を行います。手や足の付け根からカテーテルを冠動脈の付け根まで挿入し、造影剤を流すことで状態を確認してから治療の方針を決定します。
 治療方法は、原則として3つの方法から選択します。一つはカテーテル治療で、もう一つは外科的なバイパス手術と、どちらの場合でも血液を流れやすくするための薬物治療を併用します。狭心症も心筋梗塞でも、基本はできる限り早く血液を流してあげることが必要となります。心臓の筋肉は、皮膚や肝臓のように自己再生する能力がないため、一度障害を受けると元には戻りません。ですから、そうならないためにも心筋梗塞になった心臓に短時間で血液を再灌流(さいかんりゅう)させるためにも、血液をサラサラにする抗血小板薬と、狭くなった血管を広げる血管拡張薬を使用すると同時に、血管に詰まった血栓を取り除くための第一選択としてカテーテル治療を行うことで、心臓に血液を再灌流させます。
 治療の具体的な方法としては、血管にワイヤーを入れて、詰まっている部分を風船で膨らませ、脂質のカスや血栓を取り除き、最後に再び血管が狭くならないような薬を塗ってある薬剤溶出型ステントという網目状の筒を留置して完了です。治療は早ければ早いほど心筋梗塞の影響は小さくて済み、心臓の機能は温存されるため、一般的な目安としては、病院に到着してから90分以内に再灌流させることが重要となります。
 また、外科的なバイパス手術については、90分以内に再灌流できない場合や、冠動脈の詰まっている箇所が複数あるなど、カテーテル治療の適応とならない場合の選択肢となりますが、ほとんどの症例はカテーテル治療で再灌流できます。
 ただし、心筋梗塞では付随して、心筋に穴が開いて破れてしまったり、心臓の中にある4つの部屋で血液の逆流が起こらないように働いている弁の筋肉が断裂して開け閉めできなくなるなどの合併症が起きることもあるため、その場合には外科的手術で修復対応します。

虚血性心疾患予防のためにも健康診断や人間ドッグでの早期発見と適正な血管年齢を保てる生活を

 心筋梗塞の原因は動脈硬化です。そして、その上流には脂質異常症や高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などがあります。その意味でも、心筋梗塞などの虚血性心疾患を予防するためには、一般的な健康診断や人間ドックを受けていただくことで早期発見につなげることと、場合によっては薬による治療も必要でしょうし、肥満であれば運動をしたり、高血圧の人は塩分過多な食事を控え、コレステロール値が高ければ高カロリーな食事を避けるなど、年齢を超えた動脈硬化を起こさないよう、適正な血管年齢を保てるような生活を心掛けることが大切だと思います。
 札幌医科大学附属病院という3次救命救急の現場にいると、心停止で運ばれてくる多くの循環器患者さんに出会い、もっと前に治せるチャンスがあれば良かったのにと思うことが多々あります。その意味でも、少しでも気になる胸の症状があったときには放置しないで、一度病院を受診してほしいと強く思っています。

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