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脳梗塞

医師画像
札幌医科大学
脳神経外科学講座
助教
小松 克也
2004年札幌医科大学医学部卒業。10年同大大学院修了。複数の医療機関での研さんを経て、18年12月より現職。日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会各専門医・指導医。日本脳卒中の外科学会技術認定医。日本脳神経血管内治療学会専門医ほか。医学博士

脳梗塞は発症からいかに早く治療につなげられるかが重要。「ACT‐FAST」の徹底と、予防のためには「脳卒中予防十か条」を意識した生活が大切

動脈硬化性と心原性に分かれる
脳梗塞。脳卒中予防十か条で
動脈硬化を予防

 脳の血管の病気と言うと、血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れる脳出血とくも膜下出血を一緒くたに思われてしまいがちなのですが、脳梗塞という病気は、動脈硬化によって脳の血管が詰まってしまい、脳の細胞に血液が流れなくなってしまう病気であるということを知っておいてほしいと思います。
 さらに脳梗塞には、動脈硬化が進むことによって徐々に血管が細くなっていき、最終的に詰まってしまう動脈硬化性の脳梗塞と、不整脈によって心臓の中にできてしまっていた血栓が血液の流れに乗って脳の血管をいきなり詰めてしまう心原性脳塞栓症という、大きく2つのタイプに分けられます。
 そもそも動脈硬化は、年齢、食事、基礎疾患などが原因となって全身の血管に起こります。日本脳卒中学会が公表している2025年6月に改訂した「脳卒中予防十か条2025」でも、次のような内容が示されています。

第1条 手始めに 高血圧から治しましょう
第2条 糖尿病 放っておいたら 悔い残る
第3条 不整脈 見つかり次第すぐ受診
第4条 予防には たばこを止める意思を持て
第5条 飲むならば なるべく少なく アルコール
第6条 高すぎる コレステロールも 見逃すな
第7条 お食事 塩分・脂肪控えめに
第8条 体力に 合った運動続けよう
第9条 万病の 引き金になる太りすぎ
第10条 脳卒中 起きたらすぐに病院へ

 これらを徹底することで動脈硬化を防ぎ、脳梗塞をはじめとする脳卒中を予防することが期待されます。しかしながら、脳梗塞を発症された患者さんの中には、生活習慣病などの基礎疾患もなければ、食事にも気を付けていて、お酒も飲まなければ、たばこも吸わないという人がいるということも事実として覚えておいても良いでしょう。

脳梗塞は痛みよりも
「FAST」に注意
気付いたらすぐにアクションを

 脳の病気と言うと、一般的に頭痛という症状を思い浮かべる人が多いと思います。脳出血やくも膜下出血は頭の中に出血が広がるので強く痛みますが、脳梗塞では、脳の半分くらいが脳梗塞を起こしてしまっているような大きな脳梗塞でない限り、ほとんど痛くはならないと覚えていてもらった方が良いかもしれません。逆に、頭は全然痛くないが、体に急に異変が出てきたというときは脳梗塞が心配されます。
 その特徴的な症状として、1つは「顔」、英語でフェイス(FACE)。2つ目は「腕」アーム(ARM)。3つ目は「言葉」=スピーチ(SPEECH)。4つ目は「時間」=タイム(TIME)です。顔が歪んだり、腕に力が入らなかったり、言葉がうまく出なかったりという症状が出たら、症状が出た時間を確認して、急いで救急車を呼びましょうということを日本脳卒中学会が提唱しています。そして、これら4つの頭文字のF・A・S・Tを取ってFAST(ファスト)と言い、すぐに行動(アクション=ACTION)を起こしましょうということで、「ACT‐FAST(アクト‐ファスト)」ということが昔から提唱されています。
 しかし、実際にはこれらの症状が出ていても、特に高齢の人ほど「一晩寝たら治る」と言って、様子を見てしまうことが多いため、私たちとしては非常に心配に思っているのです。なぜなら、脳梗塞の治療の中には、発症してからの時間制限のある治療が2つほどあるからです。発症してからすぐに病院に来ていただき、制限時間内であれば受けられるはずだった治療が、様子を見ている間にその大事な時間を失ってしまうということもあるかもしれませんので、ぜひとも「ACT‐FAST」を徹底してほしいと思います。

4・5時間以内ならt‐PA療法
第2選択は経皮的脳血栓回収術
治療後の再発予防も重要

 脳梗塞の治療の一つは、発症してから4・5時間以内が適応となるt‐PA療法があります。点滴静脈注射で血液をサラサラにして詰まった血栓を溶かし、血管の血流を再開通させる治療です。患者さんにとって負担の少ない治療ですが、全身の血液をサラサラにするため、例えば、最近おなかの手術をした人に行うと、手術痕からの内出血などが起こり得るなど、治療を行う上で厳格な適応もあるということも知っておいていただければと思います。
 もう一つは、経皮的脳血栓回収療法という治療です。足や腕からカテーテルを入れて、脳の血管に詰まっている血栓を回収してくることで、物理的に閉塞している部分を解除して脳の血管の血流をいち早く改善させるという治療です。以前は、発症から8時間以内という時間制限があったのですが、最近は、ある程度の時間がたっていても、脳の血管と、詰まっている範囲によって助けられる部分があるのであれば行っても良いというように適応が広がりつつあります。
 特に心臓から血栓が飛んできて詰まる心原性脳塞栓症に対しては、世界的なデータを見ても治療効果に関するエビデンスもあります。穿通枝(せんつうし)というかなり細い血管が詰まる病気(ラクナ梗塞)には血栓を回収する機器が入りませんし、脳内の太い血管が徐々に詰まってくる病気(アテローム血栓性脳梗塞)の際は、血栓を回収できても、もともとの血管が細くなってきていることもあり、十分な開通が維持されないこともあります。
 しかし、動脈硬化性の脳梗塞の場合、心原性脳塞栓症のように、いきなり血管が詰まるということは少なく、少しずつ血液の流れが悪くなってきて、前触れのような症状が出やすいので、やはり「ACT‐FAST」には気を付けることが大切になるのです。
 いずれにしても、急性期の脳梗塞に対する治療としては、これら2つの方法となります。また治療後は、後遺症がある場合にはリハビリテーションを行うほか、再発予防のための手立てを考えたり、血栓ができないよう血液をサラサラにする薬物治療を続けることもあります。このほか心原性脳塞栓症に対しては、不整脈が起きても血栓をできにくくする薬もあり、完全にゼロにはなりませんが、高い予防効果が期待できるといわれています。

脳梗塞の治療は時間との勝負
50歳を超えたら一度は脳チェックを
持病がある人は注意が必要

 私が脳外科医になって20年がたちますが、医者になった当時は大きな血管が詰まった場合には手立てがなく、状況によってはそのまま亡くなられてしまう人がほとんどでした。しかし、2005年にt‐PA療法が保険認可されてから、今まで諦めていたような人も全てではありませんが助かるようになりました。さらに、カテーテルの器具類なども少しずつ改善され、カテーテル治療で血栓をうまく取り除き、脳の血流を再開できるようになりました。
 このように、早く病院に来ていただいて治療を受けていただければ、脳のダメージが大きくなる前に血流を回復することができるようになりました。その意味でも、まずは「ACT‐FAST」を徹底していただくことと、あわせて最初にお伝えしました「脳卒中予防十か条」も意識しながら、自分の体を気にしてもらいたいと思います。
 救急車で運ばれてくる患者さんの多くは、今までに一度も脳の検査を受けたことがないという人がほとんどです。脳ドックなどの検査には費用も掛かりますし、全ての人に検査を受けてもらうということは難しいと思いますが、50歳代、あるいは60歳代のある程度元気なうちに一度は脳のチェックを受けていただきたいと思っています。特に生活習慣病などの持病がある人には、ぜひ受けてほしいと思います。

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