診療室からのメッセージ
腰椎椎間板ヘルニア
- 整形外科北新病院
理事長・院長
石田 隆司氏 - 1995年北海道大学医学部卒業。同大整形外科学教室入局。函館中央病院、釧路労災病院、2009年より北新病院勤務、現在に至る。日本整形外科学会専門医。日本脊椎脊髄病学会指導医。脊椎脊髄外科専門医
患者の7~8割は自然治癒。3カ月を超えても症状が軽快しなければ手術も選択肢に。日常生活を快適に過ごすためにも早めの診断と適切な治療を
主な原因は椎間板の老化。腰痛や
足のしびれが続くなら一度整形外科へ
椎間板とは、首から背中、腰までをつなぐ骨と骨の間にあるクッションの役割をしている軟骨のことです。軟骨の外側には線維輪という比較的硬い層があり、内側には髄核というゲル状の組織があるのですが、その髄核が線維輪を破って外側に飛び出したものがヘルニアで、ヘルニアが神経を圧迫することによって、腰痛や、足のしびれ、まひなどの症状が現れるのが腰椎椎間板ヘルニアです。
原因は、椎間板の老化現象によるものですが、10~20歳代と若い方でも起こり得るほか、逆に高齢者で画像的にヘルニアが出ていても症状が現れない方もいます。一般的な症状は、重い物を持ったり、腰を急にひねったときに発症する腰痛です。そして数日後、おしりや足にしびれなどの症状が現れてくるのがヘルニアの特徴です。診断は、問診と神経チェック、補助診断としてレントゲンやMRIの画像検査を行い確定します。
治療は、基本的に患者さんの7~8割は自然に治癒しますので、痛みのある間は投薬や安静、リハビリテーションなどの保存治療で経過を見ていきます。一般的には3カ月くらいで治る方が多いですが、3カ月を超えても症状が良くならない場合や、痛みのために日常生活が困難な場合は手術の対象となります。それでも手術に抵抗がある場合には、新しい保存治療としてヘルコニア(椎間板内酵素注入療法)という日帰り治療も選択肢の一つとなっています。
MEDや最新のUBEなど、低侵襲な
内視鏡手術で早期社会復帰も可能
手術は、切開してヘルニアを直接取る方法と、顕微鏡や内視鏡を用いる方法がありますが、当病院では主に内視鏡手術を行っています。特に近年は、傷も小さく、痛みも少なく、回復や社会復帰が早い、低侵襲な治療法が求められており、全国的にも内視鏡手術が増えています。中でも、当病院で一番多く行っているのがMED(内視鏡下腰椎椎間板摘出術)です。全身麻酔下で18mmくらいの傷口から行う方法で、手術時間は約40分、入院期間は2泊3日~3泊4日くらいで退院が可能です。ただし、遠方に住んでいるため、退院後のリハビリなどの通院が困難という方や、一人暮らしの高齢の患者さんで退院後の生活に不安があるという方には、1週間~10日くらい入院していただき、入院中にしっかりとリハビリを行ってから退院していただくということも行っています。
また、UBE(2孔式内視鏡下手術)という新たな方法もあり、全身麻酔下で約4mmと約8mmの2つの傷口からカメラと手術器具を挿入し、生理食塩水を還流させながら行うことで術野も見えやすいなど、MEDよりもさらに侵襲が少なく、当病院でも2025年10月より導入しました。このほか局所麻酔で行えるFESS(フェス・完全内視鏡下脊椎手術)という約7mmの1カ所の傷口から行う方法もあり、患者さんの病態に合わせて、さまざまな方法の中から最適な術式を選択して行います。
ただし、腰椎椎間板ヘルニアは手術を行っても再発する可能性があります。病院によって再発率は5~20%といわれ、当病院での再発率は7~8%となっています。当病院では、腹筋と背筋をバランスよく鍛え、手術後の再発を含めた予防法として、リハビリ部門との連携を行いながら、体幹トレーニングにも力を入れております。
腰痛や足のしびれなどの症状は、腰部脊柱管狭窄症や圧迫骨折、まれにがんの転移が原因の場合もあります。また、ヘルニアが大きくなると膀胱直腸障害を起こし、排尿や排便が自分の意志でできなくなるなど、緊急手術を要することもあります。症状が続くようであれば、正しい診断と適切な治療を受けていただくためにも、早めに整形外科を受診することをお勧めします。

