診療室からのメッセージ
更年期障害
- 札幌マタニティ・
ウイメンズホスピタル
産婦人科医師
八重樫 稔氏 - 北海道大学農学部大学院修士課程。北海道大学医学部卒業。同大医学部産婦人科、江別市立病院産婦人科部長を経て、医療法人明日葉会勤務、現在に至る。日本東洋医学会専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医
ほてりや多汗などの症状が長く続くようなら婦人科に相談を。ホルモン補充療法による治療が有効なほか、一人一人に合った漢方処方も効果的
更年期障害と思われた症状が
PMSの場合も。一度は婦人科に相談を
更年期障害は、女性に限らず、男性にも起こり得ますが、ここでは女性の更年期障害について解説いたします。原因は、閉経によって女性ホルモンが減少することで起こる自律神経失調症によるもので、内臓や血管、腺などの機能を自動的に調節する自律神経が正常に働かなくなることでさまざまな症状が起こります。
主な症状としては、ほてりや多汗を自覚される方が多いほか、動悸、不眠、便秘、耳鳴り、片頭痛、めまい、うつなど実にさまざまです。ただし、これらの症状は月経前症候群(PMS)など他の疾患でも同じような症状が起きやすく、更年期と言われる40歳代後半になり、「更年期障害だから」と思い込んでいて、実はPMSだったという方もいらっしゃいます。更年期障害とPMSの大きな違いは、更年期障害は30日間ずっと症状があるのに対して、PMSは月経の1週間前か10日前から症状が出て、生理が始まると徐々に良くなるという、限定的にしか症状が出ないということです。しかし閉経の平均といわれる50歳前後は、更年期障害とPMSが重なる時期でもありますので、どちらなのかはっきりしない場合は、自己判断せずに適切に診断・治療をするためにも一度婦人科に相談することをお勧めします。
ホルモン補充療法や適切な漢方処方で更年期のQOL維持と向上を
更年期障害の治療は、基本的に減少した女性ホルモンを薬で補うホルモン補充療法(HRT)が用いられます。以前は60歳くらいを目安に徐々にやめていったほうが良いといわれていましたが、最近ではご本人が希望すれば60歳以上でも乳がん検診や子宮がん検診を定期的に行いながら治療を続けていって良いという考え方に変わりつつあります。
その一方、かつてHRTが乳がんのリスクを上げるというデータがアメリカから出されたことや、確たる根拠のない誤った情報が錯綜するなど、心情的にHRTは嫌だという方も一定数いることから、当院では希望される方には漢方薬の処方も行っています。産婦人科では加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の3つがよく使われますが、これらは月経不全や生理痛などにも使用されます。ただし、東洋医学的には、西洋医学的な病名投与ではなく、その方の「証(しょう)」を見極め、多数ある漢方薬の中からその方にあった薬を処方します。「証」とは、人間の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素で構成され、これらのバランスが崩れると体に何らかの症状が出るという東洋医学の考えに基づく、なぜバランスが崩れているのかという背景のことです。当院では、私を含めて日本東洋医学会専門医3人(うち指導医2人)が、一人一人の「証」に適した漢方薬の処方を行っています。
最後に、更年期障害であっても自覚症状が出ない場合があるということです。注意してほしいのが、骨粗しょう症と動脈硬化で、発症するまで気付かないまま進行することが多いのです。更年期は、骨粗しょう症による骨折率が上がってくるとともに、動脈硬化が進みやすくなってくる時期でもあります。骨粗しょう症は単に骨折しやすくなるだけでなく、骨折すると寝たきりになる確率が上がり、寝たきりになると肺炎を起こしやすく、老人性肺炎は死亡率を高めます。動脈硬化は心筋梗塞などの血管病変を起こしやすくなるなど、共に生命に直結する病気でもあるということです。自覚症状がないため婦人科を受診したことがない、骨粗しょう症の検査を受けたことがない、血液検査でコレステロール(悪玉・善玉)や中性脂肪を調べたことがない方は、更年期を迎えたら一度は婦人科や内科、あるいは整形外科を受診することも大切だと思います。

