診療室からのメッセージ
前立腺肥大症
- こうよう泌尿器科クリニック
院長
栗村 雄一郎氏 - 2000年札幌医科大学卒業。同大附属病院、王子総合病院、苫小牧泌尿器科・循環器内科を経て、19年4月開院。日本泌尿器科学会専門医。日本がん治療認定機構がん治療認定医ほか。医学博士
男性の頻尿や排尿困難、尿失禁などの排尿トラブルは前立腺肥大症が原因の可能性も。一度泌尿器科に相談を
50歳からの残尿感、夜中に何回も
トイレに起きるのは肥大のサイン
前立腺は男性にしかない生殖器で、膀胱の出口部分で尿道を取り囲むように存在し、精液の一部である前立腺液を作ったり、精子の運動機能を助ける働きをしたりしています。正常な大きさは20ml程度ですが、50歳を超えた頃より肥大してきます。これにより頻尿や排尿困難、尿失禁など、さまざまな排尿のトラブルを引き起こした状態を「前立腺肥大症」と言います。
前立腺が肥大すると尿道が圧迫されるため、尿の勢いが弱くなります。また、前立腺が膀胱を刺激することで残尿感や切迫感が出現し、トイレに行く回数が増えてしまいます。「排尿後も尿が残っている感じがする」「夜中に何回かトイレに起きるようになった」などの症状は、前立腺肥大症の可能性があります。
治療は内服薬と手術。手術も患者の
状態に合わせて選択肢も多数あり
前立腺肥大症の治療は、お薬による治療と手術による治療がありますが、多くの場合はお薬の治療から開始されます。
内服薬には、交感神経α1遮断薬(前立腺の緊張を緩める薬剤)、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(前立腺の血流を改善する薬剤)、5α還元酵素阻害薬(前立腺を縮小させる薬剤)の3種類があり、主にこれらの薬剤を組み合わせて使用されます。症状が重い場合や、お薬を服用しても効果が不十分な場合には手術による治療が選択されます。
これまで前立腺肥大症の手術は、麻酔下に尿道から内視鏡を挿入し(経尿道的)、内側から電気メスやレーザーで前立腺を切除するか、蒸散する手術が主流でした。しかし、麻酔が困難な方や、超高齢の方、あるいは抗血栓薬を内服している方など、手術のリスクや出血の危険性が高い患者さんに対して低侵襲的外科治療(minimally invasive surgical therapy:MIST)である、経尿道的水蒸気治療(WAVE)、経尿道的前立腺吊り上げ術(PUL)が導入されました。
経尿道的水蒸気治療は、前立腺に高温の水蒸気を注入して前立腺組織の凝固壊死を誘発し前立腺を縮小させる手術です。これまで行われていた温熱療法と比べて均等に熱を加えることができ、尿道粘膜や性機能の温存が可能です。前立腺を切除しないため出血量が少なく、手術時間も10分程度と短いという長所があります。前立腺体積が30~80mlと中等度の前立腺肥大に推奨されています。ただし、前立腺が縮小するまで1~3カ月ほどかかるため、治療効果が出るまでに時間がかかるという欠点もあります。手術直後は前立腺が浮腫を起こし、一時的に排尿障害の原因となるため、数日の間、尿道カテーテルの留置が必要になる場合があります。
経尿道的前立腺吊り上げ術は、前立腺に小型のインプラントを埋め込んで前立腺組織を牽引(けんいん)し、尿道を広げることで前立腺肥大症の症状を改善する手術です。前立腺組織の切開、加熱、切除を行わないため、体の負担が少なく、治療効果が出るまでの時間が短いという長所があります。特に合併症リスクの高い患者さんや、術中出血のリスクが懸念される患者さんへ有効とされていますが、体内に異物を留置しなければならない欠点があり、前立腺体積が100mlを超える方や、著名な中葉肥大がある場合には適しません。
いずれの手術方法も体への負担が少なく、これまでの手術方法が適さない、あるいはそれらの手術にともなう合併症のリスクが高い患者さんに適用されます。しかし、巨大な前立腺肥大には効果が少ないなど、低侵襲的外科治療の限界もあります。前立腺肥大症の状態や体の負担を考えて手術方法を選択する必要がありますので、主治医の先生と相談しながら、自分にとって最適な方法を選んでいただければと思います。

