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CASE4 がん治療

時代は「免疫療法」「ゲノム医療」「AI診断」
子どもへのがん教育と予防医療は必須

医師画像
北海道がんセンター
院長
加藤 秀則
1983年北海道大学医学部卒業。2017年8月より現職。日本産科婦人科学会専門医。日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医ほか。北海道大学客員教授。医学博士

日々進歩する治療の選択肢

 がん治療のトピックとしては、1つに免疫療法が挙げられます。以前から東京大学医科学研究所や久留米大学ほかでペプチドワクチン療法などの研究が行われていましたが、やはり京都大学高等研究院の本庶佑特別教授らが体の中で免疫が働くのを抑える役割を果たしている物質を発見したことで、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」が登場し、2018年のノーベル医学生理学賞に選ばれたことが最も大きいと言えるでしょう。特に、最初は肺がんや悪性黒色腫にしか使えなかったオプジーボが、子宮がん、前立腺がん、腎臓がんなど、全てのがんの治験に応用され始めたことも注目されます。
 さらに、免疫療法の一歩進んだ形として、「CAR‐T療法」というものがあります。患者さんから取り出したリンパ球と、患者さんが持っているがんの抗原を試験管の中で認識させ、がんの抗原を攻撃するリンパ球を作って体に戻すという治療法です。主に白血病やリンパ腫に対する免疫療法として、臨床応用される時代に入りつつあります。ただ、患者さん一人一人に対して行うため、費用が約4500万円と非常に高額となります。日本での扱い方はまだ分かりませんが、既にアメリカでは「治ったら払ってください」という成功報酬型で行われています。主にリンパ腫(小児がん)に対する治療が多く、小さな子どもで治るのであれば、一生のローンを組んでも治したいと思うでしょうし、現実に約7割の患者さんで治療効果が得られ、新しい免疫療法となりつつあります。
 また大きな流れとして、プレシジョンメディスン(精密医療)というものがあります。患者さん一人一人のがん遺伝子を調べて、そのがんの遺伝子変異に合った薬を使うというテーラーメイド治療と言えます。当病院でも1年以上前から独自に外来を開設して既に数十人の患者さんで検査を行っています。従来の抗がん剤治療で使える薬が無いと言われた患者さんにとっては、自費診療にはなりますが、現に延命している患者さんもいます。ただし、使える薬が効く人と効かない人がいるため、あくまでも従来の治療法では選択肢が無いと言われた人にとって、新たな望みとなる治療の選択肢が増えたということは言えるでしょう。
 現在、厚生労働省でも「がんゲノム(遺伝子情報)医療」に本格的に取り組んでいく体制の整備を始め、中核拠点病院11カ所と、連携病院100カ所(18年4月現在)が選定され、北海道では拠点病院に北海道大学病院、連携病院に札幌医科大学附属病院と当病院が選ばれました。将来的な保険診療を見据えると、小児がんや希少がんなどの難しいがんが対象となり、その他の一般的ながんは自費診療で行うことにはなると思いますが、がんゲノム医療はいつでもできる体制になっています。
 手術の分野でのトピックとしては、18年春から手術用ロボット「ダ・ヴィンチ」の保険適用が、従来の前立腺がんや腎がんに加え、食道がん、胃がん、直腸がん、肺がん、子宮がん、膀胱がんなど、12の術式に対して拡大されました。ロボット手術は、より拡大された視野で手術が行えるのはもちろん、人間の手で扱う内視鏡に比べ、手の微妙な震えによる患部への影響が全くありません。例えば、一般的な前立腺がんの内視鏡手術では、手術後におしっこが漏れてしまうといった合併症が起きることがありましたが、ロボット手術では合併症はかなり少なくなっています。その意味では、今後さらにロボット手術に移行する時代になっていくと思います。

日本独自のがん医療の構築へ

 今から5~10年先の近未来のがん治療では、1つに診断が変わってくると思います。現在は主治医や診断専門医が行っているCT画像診断や、病理医が顕微鏡で臓器や組織を調べる病理診断をAI(人工知能)で行う研究が盛んに行われており、診断のAI化は遠くない未来だと思います。
 免疫療法もさらに進み、「CAR‐T療法」の治療分野は広がっていくと思いますし、抗がん剤の投与方法などの研究もいろいろと行われています。例えば、脳には抗がん剤のほとんどが取り込まれず、現在では治療効果は期待できません。なぜなら脳には脳血液関門というものがあって、血液中に余計な物質が入らないように守られているからです。そこで、例えば小さなナノ(10億分の1m)粒子レベルの物質に薬を付着させたものを鼻の中に入れ、においを感じる嗅神経をたどって脳に薬を分配するという方法が研究されています。また、以前からあった発想ですが、薬の開発技術の発達によって、がん特有の抗体に付着させた抗がん剤を直接的に抗原に作用させる治療方法が最近注目されてきています。抗がん剤を直接的に投与することで薬の量も最小限で済み、例えば吐き気や髪が抜けるといった副作用も減らせるなど、より効率的に効果の高い治療法として期待されています。
 また、がんゲノム医療の分野でも、がんの遺伝子変異のデータはほとんどがアメリカのもので、日本人特有のデータというものはありませんでしたが、現在、国立がん研究センターと静岡がんセンターなどで、日本人特有のデータの蓄積に取り組み始めています。これが完成すれば、例えば年齢や組織型といった患者さんのデータを入力すれば、その人ではどの遺伝子に変異が見られるかといったことが分かるようになり、日本におけるがんゲノム医療の大きな進展に寄与すると思われます。
 手術用ロボットに関しても、これまでアメリカの企業が独占していたダ・ヴィンチの大部分の技術の特許が19年に切れることから、日本の企業も参入し始めており、既に試作機はできているという話を聞いています。実は、従来のダ・ヴィンチで一番の問題として、遠隔操作を行う際、触っている感覚が全くないということがあります。ですから、ちょっとした力の加減を誤ると、医療事故につながる場合もないとは言えないということです。そういった繊細な触覚や感覚による力の加減が伝わりやすい機械を日本のメーカーが完成させつつあることは患者さんにも医療者側にも大きなプラスとなるでしょう。
最後に、がん医療は日々進歩を続けていますが、やはりがんにならないということが一番重要です。言い尽くされてはいますが、受動喫煙の防止と、子どもたちを中心にがん教育を通して生活習慣を改善していくことは大切です。
 そして、明らかに防ぐことができるがんは予防するということです。例えば、ピロリ菌の除菌で胃がんは防げます。B型肝炎やC型肝炎も治療できる時代になり、それによって肝臓がんも防ぐことができます。子宮頸がんについても、副作用が問題視されていますが、問題となった副作用は、自然に発生する神経まひと頻度は変わらないという研究結果が出ているほか、欧米ではワクチン接種によって子宮がんは激減しており、個人的にはワクチン接種が再開されることを期待しています。

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