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CASE3 心筋梗塞

長く強い胸痛は我慢せず速やかに対処すべし
自分の動脈硬化を知って発症と再発の予防を

医師画像
札幌医科大学医学部長
循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
教授
三浦 哲嗣
1980年札幌医科大学医学部医学科卒業。2010年同大学医学部内科学第2講座教授(13年より講座名改称)、14年同大学医学部副学部長、16年同大学附属病院副院長、18年より現職

約7割が前兆のない心筋梗塞

 心筋梗塞とは、心臓に血液を送る冠動脈に動脈硬化が起き、その部分に血の塊=血栓ができて血管が詰まり、血液が送られなくなった結果、心臓の細胞が死んでしまう状態のことを言います。
 動脈硬化が発症する原因は、主に生活習慣病や肥満、喫煙などが挙げられ、動脈硬化の起きている血管は非常にもろく、外からの圧力にも弱い状態にあります。血管内には血流による圧力もあれば、心臓の拍動など、常に機械的な刺激が加わっています。それによって動脈硬化の部分に亀裂が入ると、人間の体は傷を治そうとして血液が固まってふたをします。それが血栓です。例えば、転んで膝を擦りむいた所に血の塊ができても特に問題はありませんが、血管の中にできると血流の通路を狭めたり詰まらせることになり、冠動脈の中にできると心筋梗塞の原因となります。
 一般的に動脈硬化と言えば、血管が厚く硬くなって、血管内が狭くなっている状態がイメージされますが、実は心筋梗塞うち、約7割の患者さんで血管はそれほど狭くなっていないところで心筋梗塞が発症しているのです。つまり、動脈硬化はあるものの、心臓の血流が不十分で胸痛や胸の圧迫感を感じるといった狭心症などの症状もなく、普通に生活しているところに予想外に急に起こる心筋梗塞が大きな問題なのです。
 狭心症は血管が狭くなっているだけで完全に詰まってはいないので症状は軽く、そのため症状が見られれば病院を受診して検査を受け、原因が分かれば早めに治療を開始することができます。しかし、心筋梗塞はほぼ完全に血管が詰まってしまうので症状も重く、胸の痛みも狭心症では5、6分で治まる一時的なことが多いのですが、心筋梗塞による胸痛は30分以上と長く続くのが特徴です。ただし、長く続く強い胸痛には、心筋梗塞のほかに大動脈解離、肺の血管が詰まる肺血栓塞栓症も考えられます。
 心筋梗塞の症状には、胸痛以外に、冷や汗が出る、血圧が下がって気が遠くなったり、失神することもあり、不整脈が出たりもします。また、心筋梗塞でも胸痛を感じない人が約1割で見られます。無症候性虚血あるいは無痛性虚血とも言い、息切れなどの心不全症状や不整脈で動悸がすることなどが心筋梗塞が見つかるきっかけになるというものです。主に糖尿病で、痛みを感じる神経が障害されている人に多く見られます。糖尿病で特に高齢の人は注意が必要です。狭心症でも同様ですので、ちょっとした息切れくらいと安易に放置してはいけません。
 痛みの場所は、主に胸の真ん中あたりが締め付けられるような感じや、首を絞められるような痛みや圧迫感、胃と間違いやすいのですが心窩部(みぞおち)に感じる痛みも注意した方がいいでしょう。
 かつては急性心筋梗塞を発症した人の約7割は病院にたどり着く前に亡くなっていました。ただし、血管が詰まったからといってすぐに心臓の細胞が死んでしまうわけではありません。亡くなる原因の多くは不整脈によるもので、それによって血液を送り出せなくなり、他の重要臓器にも血液が行かなくなって、やがて心臓が完全に停止して亡くなるのです。近年ではAEDなどが公共施設をはじめさまざまな場所に設置され、応急処置によってかなりの人が救われるようになってきましたが、危険な状態であることには変わりませんので、直ちに救急車を呼んで、一刻も早く治療を受けることが重要です。

治療ができても完治ではない

 治療は、カテーテルを通して風船で血管を広げて再疎通させたり、詰まっている血栓を吸い出すなど、詰まった血管を一刻も早く開通させます。カテーテル治療ができない場所では血栓を溶かす薬を投入します。また、カテーテル治療を行うには危険な場所もあり、その場合には外科的なバイパス手術を行います。一般的に、動脈硬化による心筋梗塞の場合では9割以上でカテーテル治療が行われていますが、大動脈解離にともなう心筋梗塞など、発症する原因によっては手術しか行えない場合もあります。
 さらに、詰まった血管を再疎通させた後の治療も大切です。1つは血をサラサラにする抗血小板薬の服用です。カテーテル治療は、あくまでも詰まった血管を再疎通させただけであり、動脈硬化が治ったわけではありません。ですから動脈硬化の起きている血管にまた亀裂が入れば血栓はできるわけです。ただ血栓ができたからといって必ず心筋梗塞になるわけでもありません。ですから、なるべく亀裂が入っても大きな血栓ができないよう再発予防のためにも血をサラサラにする薬を飲むことが必要なのです。
 もちろん動脈硬化の原因となる生活習慣病の管理は引き続き重要です。以前は動脈硬化を起こした血管は元には戻らないといわれていました。しかし、年齢的な自然歴というものはありますが、最近では動脈硬化のある血管に加わる機械的なストレスを減らすように、血圧や血糖値、コレステロールを下げることによって、もろくなった冠動脈の動脈硬化部分をもろくないものにして、亀裂が入りにくいようにすることができるといわれています。その意味でも、心筋梗塞の1次予防として、生活習慣病の管理のためにも食事や運動はもちろん、必要に応じて薬を服用することも大切なのです。
 しかしながら、心筋梗塞を経験した人は理解してくれますが、動脈硬化や、その原因となる生活習慣病は症状が無いため、なかなか理解が得られないということが現実としてあります。現在では、冠動脈をCT検査で直接見ることができるほか、冠動脈の変化と必ずしも一致しませんが、頸動脈エコーでも動脈硬化の程度を診ることができます。
 さらに動脈硬化の状態を知る方法として、最もシンプルなものでは血圧の上と下の差、脈圧から知る方法もあります。上の血圧から下の血圧を引いた数値が60以下というのが健康な血管の目標値といわれています。この他にも、両手両足の血圧を一緒に測定することで、全身の動脈硬化の目安となるCAVIという指標を測ることができ、高齢者や高血圧、糖尿病などの危険因子がある人には頸動脈エコーとともにルーチンで検査する病院が多くなっており、心筋梗塞の1次予防のためにも生活習慣病を放置してはいけないことを認識していただいています。
 心筋梗塞の原因となる動脈硬化は全身の病気です。例えば、足の血管で動脈硬化が進むと、長い距離を歩くと足が張って歩けなくなるという症状が現れます。脳の血管の動脈硬化は脳梗塞を起こします。こうした血管の病気の予防にも危険因子の管理が大切です。特に北海道は動脈硬化の危険因子である喫煙率が高く、多くはありませんが心筋梗塞を起こした若い人はほぼ喫煙者です。その意味でも、まずは日頃の生活習慣を見直してみることが最も重要なことなのです。

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