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ポストコロナ時代の健康学

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日本医療大学総長
島本 和明
1971年札幌医科大学卒業。同大第2内科教授、同大附属病院病院長、同大学長を経て、2016年4月より現職。日本高血圧学会・日本動脈硬化学会各名誉会員。国際高血圧学会・日本老年医学会各理事。日本循環器学会特別会員ほか

新型コロナウイルス感染症の発生を契機に、患者にとって、医療機関との関わりは大きく変わった。
定期通院がしづらくなったり、自己判断で通院を控える人も少なくなかった。
また、健診・検診などの「予防」という意識も著しく低下し、がんをはじめ各種疾患の早期発見が遅れるなどの問題が指摘されている。
コロナ禍前後の「医療現場の変化」と、患者をはじめ健康な人に向け、ポストコロナ時代の「受診・健康管理(既往疾患との付き合い方)の心得」について、日本医療大学総長である島本和明氏にお話を伺った。
(取材日・2022年6月21日)

コロナ禍を経験して見えてきた
新たな診療体制と医療との付き合い方

 新型コロナの影響は、医療の現場においてもいろいろな形で出てきています。現実に、入院患者さんのいないクリニックでは耳鼻科と小児科が大きな影響を受け、次いで整形外科、内科というように、閉院あるいは廃院につながってきている数が確実に増えていきました。耳鼻科と小児科に関しては、季節性の風邪やインフルエンザが極端に減ったまま2年間が過ぎ、2022年に入ってもほとんどいなかったということが直撃していると言います。整形外科についても、受診控え、あるいは自粛生活で子どもから大人までがスポーツをしなくなっていることもあって、スポーツ障害やけがも減り、外出自粛で交通事故も減っているということも関係があるようです。
 薬の処方についても、月1回処方箋をもらいに行っていた人が、外出したくないからと2カ月に1回、3カ月に1回にしてほしいということで、コロナ禍ということもあって病院側も対応していたのですが、かなり感染者数も減ってきて、落ち着いてきているにもかかわらず、いまだ長期処方を望む患者さんが少なくないというのも事実のようです。病院側にとって再診料というものは大きく、1カ月に1回来ていた患者さんが2カ月に1回になるということは、再診料が半分になるわけです。ただ、患者さん側にとっては、特に生活習慣病で薬だけは続けて服用していて、病態などに変わりがないのであれば、2カ月に1回でも、3カ月に1回でも、その分の再診料はかからないのでメリットは大きいと言えます。
 もう一つ言えることは、見方によっては良いことなのかもしれませんが、コンビニ受診が減ったということです。コロナ禍ということで少し我慢してみたら、意外と何ともなかったということが多かったようです。このように多くの要因で外来患者さんが減少しています。
 コロナ禍による影響はクリニックに限らず、中規模の病院にも現れています。とりわけコロナ病棟のある病院や、発熱外来を行っている病院というのは、受診抑制で一般の患者さんが減り、手術の待機や延期、新たな入院も減るなど、さまざまな理由から経営的な問題が出始めてきていることは間違いないようです。
 大学病院などの大病院でも受診抑制による患者さんの減少や、手術の延期などで入院患者さんも減っているところはあるようです。ただし、新型コロナの重症患者さんを受け入れるために一定数のコロナ病床を確保していた病院では、国からの補助金があり、影響はそれほど大きなものではないと聞いています。しかし、「ウィズコロナ」から「ポストコロナ」に変わったとき、コロナ病床は補助金の対象から消えることになるかもしれません。そうなると中規模病院と同様の課題が浮き彫りになってくる可能性はあると思います。
 その意味で、ポストコロナ時代は、コロナ禍前の体制に戻すことと、新たな体制づくりに取り組んでいくこと、両方とも必要だと思います。今まで2週間に1回、あるいは1カ月に1回通院していた患者さんのうち、全員が本当にその通院が必要なのかということはあると思うのです。1カ月に1回の通院でも、極めて状態の安定している患者さんであれば、2カ月に1回でも、半年に1回でも良い場合もあるかもしれません。もちろん受診した際には必要な検査をきちんと行い、必要な薬はちゃんと飲み続けていただくということは条件となります。ただ、そのことによって薬を飲まなくなったり、油断してしまうと危険な患者さんもいると思いますので、医療者側と患者さん側が一緒になって、そういったことを考えていくということも求められている時代なのかもしれません。

受診控えで危惧される病気の見落とし、高齢者ではフレイルの心配も

 日本対がん協会のグループ支部が実施した5つのがん検診(肺・胃・大腸・乳・子宮頸)の受診者数についてのアンケート調査の結果によると、新型コロナ発生後の20年は、新型コロナ流行前の19年から約3割も落ちたのです。翌21年には約2割戻りましたが、まだ新型コロナ前には戻っていません。そして、20年に見つかったがん患者さんは減ったという報告があります。ただ、現実には減っているはずはなく、あくまでも検診受診者数が減ったことによって病気を見つけられなかったということなのです。このことは、がんに限らず、そのほかの重大な病気を見落としている可能性があるということにもつながっていると言えます。
 もう一つは、やはり受診抑制・受診控えです。受診抑制の期間が長くなればなるほど、検査の回数も減るわけです。病院に通院している患者さんは、病院で受ける検査で新たな病気が分かる場合もあるわけですが、必要なはずの検査を忘れてしまうことで、病気の発見が遅れてしまうということにもなりかねません。ですから健診・検診と同様、病気を見逃さず、早期発見・早期治療という基本に立ち返るためにも、新型コロナ前の診療レベルに戻すことは必要であるということを意識してほしいと思います。
 札幌市の特定健診受診者(40~74歳)約2700人の検査データで、コロナ禍にあった20年の平均値を見ると、血圧が上がり、肥満(腹囲)が増え、肝機能(ALT=GPT)も悪くなったという、21年春の札幌市からの報告があります。特定健診ですから、原則的に病気があまりない状態で受けていると思うのですが、毎年受けている健診でこういう結果が出ているということは、やはりコロナ禍における自粛生活、あるいは引きこもりといったことの影響の現れだと思います。
 外出自粛による運動不足、そして自宅での家飲み、家食べ、そしてストレス。これらによって結局は肥満を増やし、脂肪肝による肝機能障害、ストレスが加わることで血圧が上がったという結果が、札幌市のデータに出たのだと思います。
 特に高齢者は、外出自粛などで引きこもりがちになると、筋肉量が減少し、全身の筋力低下が起こるサルコペニアの進行や、虚弱と言われるフレイルも心配されます。中でもフレイルには、身体的フレイルと精神的フレイル、社会的フレイルの3つがあるのですが、コロナ禍にあって大きく関係してくるのが精神的フレイルで、家に閉じこもりがちになることで、意欲の低下やうつ状態、認知機能の低下にまでつながる場合もあります。
 そして精神的フレイルは、社会的フレイルとも極めて近く、人との接触も減るため、社会から孤立した状態になってしまうわけです。そうなると当然ですが、さらに運動不足となり、身体的フレイルが悪化することになり、その結果、これら3つのフレイルの悪循環に陥ってしまうことになるのです。
 高齢者は何に対しても真面目です。「感染が心配だから出掛けないようにしましょう」と言えば、出掛けません。「ワクチンを打ちましょう」と言われれば、年齢が上の人ほど接種率が高いのも、そういうことなのです。
 その意味でも、高齢者に関しては、家族や周囲を含め、みんなで意図的に働きかけていくことが必要だと思います。これ以上の時間がたってしまってからでは、フレイルからうつ状態、あるいは認知機能の低下が進行することを、とても心配しています。

若い世代の3回目ワクチン接種の推進と、後遺症への対応が今後の課題

 ポストコロナ時代の過ごし方ということについて言えば、若い世代での3回目のワクチン接種についても考えなければなりません。まだ40%(取材日時点)と、打っていない方が多いのです。これには、やはり副反応の問題が大きく、特にモデルナを2回打った方で、3回目を打ちたくないという方が多く、当大学の学生を見ても、8割で発熱の副反応があったと言います。ファイザーでは3割ほどでした。ですからモデルナを2回打って副反応でつらい思いをした方が多かったということが、3回目は打たないということに反映されているのだと思います。
 もう一つ、ポストコロナということで大きな課題となるのが、コロナ後遺症です。一番多い症状は、やはり呼吸困難、息切れ、咳や痰(たん)。検査をしても異常は見られないにもかかわらず、非常につらい症状だけが残っています。さらに味覚異常や嗅覚異常も多いほか、全身の倦怠感が取れないという方も少なくないようです。それがずっと続いて、仕事を辞めたという方もいるほどなのです。また、メンタル面からうつ的状態になったり、記憶障害が長く続いている方もいます。
 当初、多くの医療人も時間がたてばいずれ治ると思っていました。しかし、これらのような新型コロナの症状とは全く別の症状に悩んでいる方が一定の割合でいるということに対して、医療機関もかなり真面目に取り組んでいかなければならないのが、ポストコロナ時代に求められる対策だと思います。

見えてきたポストコロナ時代の課題
必要以上に怖がらず、健康を守る行動を

 新型コロナに対しては、「正しく怖がれ」ということが言われてきました。決して甘く見てよいということではありませんが、だからと言って怖がり過ぎて、家に引きこもるという時期ではもうなくなってきています。まだしばらくはウィズコロナだと思いますが、医療提供体制はしっかりとでき、診断も比較的スムーズに行われるようになり、治療薬もできてきています。その意味でも、新型コロナというものを必要以上に怖がらないでいただきたいです。
 もう一つ、今後の課題の一つだと思うのが、感染症法上の分類の問題です。現在、新型コロナは結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)などの2類に位置付けられていますが、2類ではもう限界があると思うのです。それで季節性インフルエンザなどと同じ5類に引き下げようという議論が今なされています。
 2類とは、全て国費で扱われるため、厚生労働省がイニシアチブ(主導権)を持って、自治体・保健所が診断・検査・治療まで全ての判断を行ってきました。熱が出たら保健所に連絡して、保健所でPCR検査を行い、現在は薬の取り扱いも保健所です。第4波や第5波のときには保健所はパンクし、東京も大阪も札幌も、大都会では救急車が動かなくなり、新型コロナの患者さんは入院もできなくなりました。
 では、季節性インフルエンザは、なぜ5類なのかということです。病院に行けば、その場で診断がつき、検査キットで15~20分で結果が出ます。薬も内服薬から吸入薬、注射薬などがあり、その場で治療ができるからなのです。
 しかし、新型コロナは2類のままでは薬があっても、診断も治療も保健所の指示が必要で、これが投薬が増えない要素になっているわけです。もっと医療機関を有効に使えるようにする。もっと早く結果が出るような抗原検査キットを作る。病院のその場で診断から薬による治療が行え、保健所への報告は事後でも構わないというような5類的2類の仕組みなどを作っていければ、入院する患者さんも減ると思うのです。患者さん側も、新型コロナかどうか分からずに不安なまま何日も自宅で待機しているよりは、すぐに結果が分かるような検査キット、そして投薬があれば、少しは不安も解消されると思います。感染したかもしれないという不安な気持ちは、経験した方でなければなかなか分かりません。
 これらのことからも、まずは発熱外来と同じようなルートで薬まで出せるような仕組みを早急に作ることができれば、患者さん側も、病院やクリニック側にも大きなメリットになります。そういう整備を国には進めてほしいです。
 今後の課題は見えてきました。これまで私が話したようなことをポストコロナ時代という今後にぜひ生かし、毎日の健康管理や病気の予防、あるいは病気の早期発見・早期治療につなげてほしいと思います。

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