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人生100年時代を生き抜く健康学

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島本 和明
日本医療大学総長
1971年札幌医科大学卒業。同大第2内科教授、同大附属病院病院長、同大学長を経て、2016年4月より現職。日本高血圧学会・日本動脈硬化学会各名誉会員。国際高血圧学会・日本老年医学会各理事。日本循環器学会特別会員ほか

新型コロナウイルス感染症の発生以来、私たちは自粛生活を強いられてきたと言って過言ではない。
感染予防という意味では一つの方策ではあるが、その一方、新型コロナ以外の理由で健康を害してしまってはいないだろうか。
身近なことでは、在宅増や外出減の影響で、「コロナ太り」「体力低下」「ストレス増大」といったことを感じている人は現実に多くいるという。
そうであるならば、私たちは感染症対策だけでなく、自らが自身の健康ということを、より一層強く意識しなければ、
将来的に健康を守り維持することはできない環境に変わってきていると言えるのかもしれない。
その意味でも、まずは「自分の健康状態を知る」ことが大切ではないだろうか。
そして自ら「自分の健康を作る」ことを強く意識し行動しなければ、将来の「人生100年時代」を生き抜くことはできないのではないだろうか。
日本医療大学総長である島本和明氏にお話を伺った。
(取材日:2021年6月)

回復しつつある高齢者の受診抑制。
心配されるのは小児で減少傾向が続いている受診率と定期予防接種

 コロナ禍での問題として、第一に、健康診断(健診)の受診率が落ちていることが挙げられます。2021年はコロナ以前の状況に少しずつ戻りつつある傾向ですが、新型コロナウイルス感染症発生1年目の20年の健診受診率ははっきりと落ちています。日本対がん協会の調査によると、がん検診の受診率も全国で3割、北海道では2割強減っていると言います。確かに外出自粛要請の影響により、通常の定期的な医療機関への受診でさえ控えている患者さんも多い中で、自分の健康状態を確認することや、病気を早期に発見することなどを目的とした健診については先延ばしでいいと考える人はいるでしょう。しかし、将来の健康という意味において、がん検診を含め、健診抑制が起きていることに対して、実は非常に心配です。
 次に病院やクリニックへの受診控えです。不要不急な外出の自粛に医療機関は入っていないのですが、定期的なかかりつけ医にも受診抑制が働いてしまい、ほとんどの病院やクリニックで20年の外来受診率が20~30%は減っていると聞いています。そして特に、受診抑制によって一番心配なのが、薬を継続的に飲むという習慣が途絶えてしまっていないだろうかということです。しかも生活習慣病の場合、高血圧や糖尿病、脂質異常症などは薬を飲まなくても症状に現れない人がたくさんいます。そうすると症状が何もないため、「まあいいか」と、受診抑制から受診をやめてしまう、治療を中断してしまうところにまでつながってしまっている人もいるのです。治療を中断してしまうということだけは、ぜひ気を付けてもらわなければいけません。
 私が診ている高血圧の患者さんに対しては、できる限り電話をかけて、コロナが感染拡大しているときは遠隔診療、つまり電話受診でいいので、家庭血圧を測って教えてもらい、薬も2~3カ月分と長期処方を行うことで、血圧の管理もきちんとできています。しかし、なかには電話連絡が途絶えてしまう人がいます。そして、何カ月かたって急に血圧が上がって心配になり、ようやく受診してきたり、場合によっては脳卒中を起こして救急搬送されたという人もいるのです。だからこそ気を付けなければいけません。
 ただ、21年はかなり受診抑制が解消されつつあります。とりわけ高齢患者さんは戻ってきつつあると聞いています。
 コロナ禍の問題として、もう一つ心配されるのが小児の受診率が落ちていることと、小児予防接種も減っていることです。小児の予防接種には、決められた年齢に接種が推奨されるワクチンがいくつもあり、接種が遅れたり、接種しないことによって、将来的に新型コロナとは別の感染症が心配されます。しかし、小児の受診はまだ高齢者ほど戻っていない状況にあります。
 小児の受診抑制が続いている理由として考えられるのは、今までは風邪で病院を受診していたものが、市販薬で治ったり、しばらく様子をみているうちに治ったりすることが経験的に分かってきたことなどもあるようです。善しあしの問題ではなく、これまでは比較的軽い症状でも受診していたが、行かなくなっただけというケースもあるかもしれません。ただし、今までは早く受診していたために大事に至らなかったり、手遅れにならずに済んでいたような病気もあったと思うのです。特に小児の場合、もう大丈夫だとそのままにしておくことによって、大事な病気を見落としてしまうということにならないよう、気を付けていただきたいです。

健診受診率をはじめ、
ワクチン接種率の低さは、
自由人である道民性の悪い意味での一面とも考えられる

 健診受診率は、特定健診、がん検診ともに、そもそも北海道は全国的にも低く、コロナ禍でさらに助長されている傾向にあります。
 健診受診の意義は、自分自身の健康の維持と管理、そして病気にならないために重要となる予防のために必要なものです。年1回健診を受けることで、仮に病気が見つかっても、早期であるほど病気も早く治りますし、正常と異常の境界域で見つけられれば、特定保健指導を受け、病院に行かなくても、薬を飲まなくても、生活習慣の改善によって病気を無くす、あるいは病気にならないよう手を打つことができるということを強調したいのです。
 しかし現実には、特に北海道というのは「健診受けない王国」みたいになっていて、さらには今回の新型コロナウイルスワクチンの接種率も全国で最も低い(政府集計による21年6月23日時点での国内の65歳以上高齢者のうち、少なくとも1回接種した人数)ように、予防に対する意識も低いようです。すでに多くの感染者を受け入れていることによる医療がひっ迫している状況の中、ワクチン接種まで手が回りにくいという事情もあるのかもしれません。しかし、その一方で、札幌市内の集団接種会場では予約枠にかなりの空きがあるという報道もあったりと、道民性(県民性)なのか、とても不思議です。全国的に見ても北海道は新型コロナの感染者は多い方ですから、ワクチン接種を希望する人は多くてもいいと思うのです。北海道人はいい意味で自由人であり、健診を受けたくない自由、ワクチンを打ちたくない自由というものがあるような気がします。
 アメリカは古い伝統のあるイギリスと比べて「自由の国」と呼ばれますが、日本においての北海道も、本州に比べて歴史は短く、良くも悪くも伝統や因習といったものがあまり無く、非常に自由な道民性があるように感じられます。本州では周囲の目もそれなりに厳しく、意識せざるを得ないことが多いのですが、そういう意識が北海道民には非常に少ないと思うのです。
 コロナ前の話ですが、本州から来た人とすすきのへ飲みに行くと、女性同士で遅くまで飲み歩いている姿を見かけると、私などはあまり抵抗を感じないのですが、よくびっくりされることがありました。「こんな時間まで女性同士でお酒を飲み歩いているのですか?」と。たばこも同様です。喫煙率は北海道が全国第1位、男性は4位ですが、女性は長年にわたって第1位です。本州であれば「あそこの〇〇さんがたばこを吸っている」などと言われるわけですが、北海道ではそういうことはほとんどありません。そういった北海道人の自由さが、健康面にまで及んでしまっているのであれば、それは決して良いことではありません。年1回の健診受診、できればがん検診も受ける。今は新型コロナのワクチン接種についても前向きに考えてほしいです。

新型コロナでさらに悪化したと思われる北海道民の生活習慣。
より一層の現実認識と改善が必要

 さらに大事なことは、飲酒や喫煙を含め、さまざまな病気につながっていく生活習慣を健康的なものに正していくということです。しかし、この生活習慣というのも北海道人にとっては大きな問題で、塩分の多い食事を好み、野菜摂取も少なく、とにかく歩かないため運動不足で、さらに肥満が多い。まさに生活習慣病を作り出す条件がそろっているのも北海道人の道民性と言えるのかもしれません。
 これらのことからも、健診受診とともに、いかに健康的な生活習慣というものを身に付け、維持していくかも重要な課題と言えるでしょう。塩分を意識したバランスの良い食事、適度な運動の習慣化で肥満を防止するだけでも、結果として血圧は高くなりにくくなり、血糖やコレステロール、中性脂肪などの低下にもつながっていきます。また今の時代、ストレスも重要な要素になります。ゼロにすることはできませんが、できるだけ少なくするよう心掛けることも大切です。
 新型コロナをきっかけに、人々の健康に対する意識が変わってきたという意見もあるようですが、ワクチン接種率の現状を見る限りでは、北海道民の悪い意味での自由さは簡単には変わりそうもないないようです。
 北海道に関して言えば、20年の2月28日に北海道知事が独自に「緊急事態宣言」を発出してからの外出自粛によって、運動不足になるということはあったと思います。その解決策として考えられることは、いかに家の中で行える運動を取り入れ実行していくかということでした。実際、家の中でも運動できるグッズなどはかなり売れたそうです。しかし、そういったグッズというものは、一般的に購入してから2~3カ月で物置に片付けられてしまうことが多いというのが相場です。
 食事に関しては、最初の「緊急事態宣言」当時はレトルトやインスタントなどの食品が品薄になるほど売れました。さらにテイクアウトや宅配・デリバリー食も広く普及しました。外出もできず、まとめ買いなども要請された時期でもあり、仕方がない面はあるのかもしれませんが、これらの食事はやはり塩分やカロリーが多いです。もう一つ、家飲みというのも影響していると思います。私個人は一人で飲んでもおいしく感じないので減っていますが、家飲みで飲む酒量が増えたという人も少なくないようで、それも太ることにつながっています。最近発表された20年のあるデータによると、女性の3割が「自分はコロナ太りだと感じている」とのことで、男性も2割ほどいたそうです。カロリーの多いものを食べ、家にこもっていて動かなければ当然太るわけです。
 21年6月20日までは3回目の「緊急事態宣言(北海道は4回目)」が発令され、7月11日までは「まん延防止等重点措置」期間だったわけですから、1年半以上にわたっているコロナ禍に身に付いてしまった悪い生活習慣を元に戻すことはなかなか大変なことかもしれません。そもそも食事と運動不足は、コロナ以前から北海道人にとって健康を維持するための重要な課題だったわけですから、ある意味では、マイナスからの再出発と考えざるを得ないとも言えるのかもしれません。

特に高齢者では
「サルコペニア」や「フレイル」への注意が必要。
コミュニケーションを取ることも大切

 特に高齢者の場合には、外出自粛などで家にこもりがちになることで、「サルコペニア」の進行も心配されます。サルコペニアとは、加齢などによって筋肉量が減少し、全身の筋力低下が起こることです。例えば、健康のために仲間と楽しんでいたゲートボールもゴルフも水泳クラブにも行けない。趣味のカラオケ、昼カラオケ(昼カラ)ではいくつかのクラスターも起きましたが、それもできない。週に数回通っていたデイケアでのリハビリですら通えないという状況がありました。今は再開されるようになりましたが、それでも周囲からコロナが心配だからと止められたりもするようです。
 また、65~74歳までの前期高齢者、あるいは75歳以上の後期高齢者で増えてくる「フレイル」、いわゆる「虚弱」も心配されます。フレイルには3つの要素があり、「身体的フレイル」「精神的フレイル」「社会的フレイル」に分けられます。
 身体的フレイルは、例えば膝や腰が痛いといった骨や関節、筋肉の衰え、脳卒中の後遺症によるまひなども含め、物理的に動きづらくなる、いわゆる肉体的虚弱です。
 精神的フレイルは、今のコロナ禍にあって大きく関係してくるのですが、家に閉じこもりがちになることで、意欲の低下やうつ状態、認知機能の低下も顕著に見られるような状態を言います。閉じこもっていると筋肉も衰え、転倒もしやすくなり、高齢者では転倒すると骨折もしやすくなり、その結果、身体的フレイルにもつながるのです。
 社会的フレイルは、精神的フレイルとも極めて近く、社会から孤立した状態を言います。これら3つのフレイルが常に悪循環して進んで行くことで最後には要介護という状態にまで至ってしまうわけです。
 ただし、フレイルは病気ではありません。健康と要介護の中間の時期の状態を言います。ですから何もしないままでいると、要介護という状態に進んでしまいますが、早期の段階のフレイル、あるいは心身のちょっとした衰えを感じるようなプレ・フレイル(前虚弱)の状態に早く気付き、正しい食事と適度な運動、質の良い睡眠、場合によって薬が必要になることもあるかもしれませんが、そういったことを意識することによって、少しでも健康な状態を取り戻すことができますので、より気を付けていただきたいと思います。コロナ禍において、高齢者の場合、そういう状態に陥りやすい環境が以前より強まったと言えるでしょう。
 また、高齢者に関しては、特に家族、友人、知人など、周囲のサポートということも重要になります。直接会えなくても、電話でもいいのです。誰かとコミュニケーションが取れているということは大切で、それだけでも食べられるようになったり、元気を保てるのです。遠く離れた高齢の家族には、より意識的に電話で連絡を取り合うということもフレイルの予防につながるでしょう。

悪化した生活習慣の悪循環を断ち切ることが重要だが、
一人一人が強い意識を持って臨むしか術はない

 長期間にわたって続いている、さまざまな自粛要請や日常生活、あるいは社会活動に対する多くの制約に、誰もがコロナ疲れを感じているのも事実で、そのことも悪い生活習慣に陥るという結果に現れているのだと思います。そして食事もお酒も、外出自粛も、テレワークのことも、あるいは感染リスクということを考えても、全てがストレスにつながってくるわけです。先日の新聞にも、アンケートに答えた半分の人がストレスを感じているとのことでした。
ストレスによって食べる量が増え、飲む量が増え、体重が増えるわけです。コロナ禍で精神的に追い詰められている人が多いのは事実です。それがこの1年半の間に繰り返され、悪循環に陥ってしまっているのです。
 よくストレスの解消法について聞かれることがあるのですが、これがまた厄介な問題です。人によっては食べること、お酒を飲むこと、運動がストレス解消法でしょう。あるいは昼カラといった娯楽もそうで、そこにに多くの制約がかかり、あるいは自粛生活の中で悪い生活習慣につながってしまっているわけです。そういった状況の中にあって、新たなストレス解消法を見つけ、それを取り入れながら自分自身に合った新しい生活様式を取り入れましょう。いわゆるニューノーマルを確立し、ニュースタイルを実践することがコロナ後に求められ新しい生活習慣ということなのかもしれません。しかし、それができている人と、できていない人がいて、できていない人の方がまだまだ多いのが現実だと思うのです。
 私も20年の1月から一度もスポーツジムに行っていません。それまで週4回5回は行っていたスポーツジム通いがゼロになりました。私の場合は、家の周りを含め、他人の少ないところを散歩したり、家の中でステップを踏んでみたりと頑張ってみました。ただ、やはりつまらない。スポーツジムで体を動かす方が楽しいし、運動になるだけでなく、本当にストレス解消にもなりますよね。
 行動が変容していくということについては、悪い方向には極めて簡単に向かうのですが、良い方向に向かうのは非常に難しいということは皆さん分かっていると思います。しかも今回のコロナ禍という、行動変容のための手段に制限がある状況というのは、より難しいわけです。外出も難しい、食事もなかなか自由にならない、他人と会って話すことも難しいという中で、いかに自分に合った解決策を見つけることができるか。自分の好きなことで、しかも生活習慣を悪くさせることなく、長く続けられることを、個々人で努力して探してもらうしかないでしょうね。
 その意味では、いかにストレスを解消するかということを考え、この悪循環をいかに断ち切るかという発想に立つことこそ大切ではないでしょうか。やはり新型コロナの感染拡大を食い止めることが最大の課題ですが、一人一人がコロナ禍でも健康を維持するという意識も忘れてはいけないと思います。それはコロナ禍の前よりも強く意識しなければならないことで、結局のところ、いかに自分自身の意思というものを強くしっかり持つということしかないのです。
 新型コロナもいずれはワクチン接種の効果で収まっていくと思われます。人類の歴史を振り返っても、パンデミックは繰り返しながらも必ず収束します。新たな変異株との戦いは続くと思いますが、できる限り多くの人にワクチン接種を受けていただきたいと思います。この1年半の経験に学び、新たな感染拡大の波に備えて、早め早めの検査やワクチン接種など準備は欠かさないでほしいと願っています。
 少しでも早く、新しい日常から、普通の日常に戻ってくれなければ、本当の意味での健康維持、健康を作るためのスタート地点には立てないのかもしれません。まずは、新型コロナに負けずに毎日を前向きに生きていきましょう。

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