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くいとめよう のりこえよう

新型コロナウイルス

発生から1年以上たった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。
北海道に関しては2020年2月28日に北海道知事が独自に「緊急事態宣言」を発出し、同年4月16日には政府より全都道府県に「緊急事態宣言」が発出された。
その後、感染者数の減少、拡大を繰り返しながら、21年1月8日には首都圏などで3回目の緊急事態宣言が発出。
北海道においても独自の特別対策などが講じられたが、感染拡大に歯止めがかからず、新たに設けられた「まん延防止等重点措置」を政府に要請、同年5月9日から31日まで札幌市において適用された。
しかし、同月16日には北海道にも31日までの緊急事態宣言が発令、さらに6月20日まで期間が延長された。
新型コロナとの闘いは、今もって先行きは見えない。
この現状を、私たちはいかに受け止め、向き合っていけばよいのだろうか。(取材日・21年6月2日)

医師画像
札幌医科大学医学部微生物学講座教授
横田 伸一
1985年北海道大学理学部化学科卒業。87年同大大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。住友化学工業㈱生命工学研究所、住友製薬㈱総合研究所、㈱エイチ・エス・ピー研究所を経て、2000年札幌医科大学医学部微生物学講座、13年より現職。日本細菌学会理事、日本感染症学会評議員ほか。薬学博士(東京大学)

軽症者や無症状者によって感染拡大した新型コロナ

― 新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染症が発生してから1年以上がたちましたが、振り返って率直な感想をお聞かせください。

横田 新型コロナが発生した当初、真っ先に思い出されたのは2002年に中国広東省で発生したサーズコロナウイルス(SARS‐CoV=重症急性呼吸器症候群)や、09年に世界的に流行となった新型インフルエンザでした。その時は、いわゆる普通の風邪を引き起こすコロナウイルスの一つで、サーズも約半年で終息したことから、飛沫感染対策をきちんと行えれば、それほど難しい問題ではないだろうと考えていたのです。しかし、現実には予想に反して驚異的なスピードで大きく広がってしまいました。
 その後、新型コロナが大きく広がっていった本質というのが、軽症者や無症状者が多いということ、これが非常に厄介だということが分かってきたのです。サーズの場合は発症者さえ封じ込めればよかったわけですが、新型コロナは無症状で、感染者と分からない感染者が一定数いるというところが大きな問題です。一度は第1波が収束したと思われた北海道で第2波が起きたのは、そういった無症状や軽症である本州や海外からの来道者によってウイルスが持ち込まれたことによるもので、第1波が武漢由来のウイルス株で第2波が欧州で発生した変異株であったことからも明らかです。
 また、その一方では、重症化して急速な転機をたどって死に至るという人も一定の割合でいるという、本当に厄介なウイルスであるというのが昨年(20年)のちょうど今頃の率直な思いでした。

― 現在では、発生当初よりも感染力が高いといわれている変異株がいくつも発見され、重症化率や死亡率を高め、より厄介な事態にあると思います。

横田 北海道の第2波の際には、欧州で発生した感染力の高くなったウイルスが日本に入ってきて、この変異株に置き換わったことが明らかになっていました。そもそもウイルスは単独では生存できず、他の生物を利用して自己を複製することでのみ増殖するわけですが、遺伝子を複製する際のコピーミスによって、さまざまな姿に変異していくのです。その過程で環境に適応した、すなわち感染力の高くなったものが残っていくのです。一方で、変異を繰り返す中でウイルスが病原性が強まる方向に進むとは限りません。必ずしも100%とは言えませんが、過去のいろいろな例を見ても市中感染が広がる中で変異を繰り返すことで病原性が急激に上がったという事例をあまり聞いたことがありません。
 また、重症化率や死亡率といったものは、ウイルス自身の病原性の強さというよりも、それ以外のさまざまなファクター(要因)も関係してくるのです。重症化率や死亡率とは、基本的に割合の問題なのです。感染者の数、いわゆる分母が増えれば、当然のことながらその数に比例して分子も増えていきます。ですから感染が拡大すると重症化する人も亡くなってしまう人の数も増えてくるのは当然のことと言えるわけです。一概に変異株が見つかったイコール病原性が強いかもしれない、といった性急な結論は出せないわけです。
 現在主流となっているイギリス由来の変異株と呼ばれている新型コロナウイルスに見られる「N501Y変異」というものが感染力を高めているということについては、ほぼ間違いないだろうと言われています。この変異は、南アフリカやブラジル由来の変異株にも共通して入っています。
 ちなみに、変異株の呼び方について、WHO(世界保健機関)から地名を使わないようにと、ギリシャ語のアルファベットを用いる方針が発表(21年5月31日)され、これまでイギリス株と呼んでいたものを「アルファ」、南アフリカ株を「ベータ」、ブラジル株を「ガンマ」、インド株を「デルタ」と呼ぶよう提唱されましたので、今後は変わってくると思います。

新型コロナに慣れてしまっていませんか?

― 第4波の感染拡大には、感染力の高い変異株が主流になってきたということも一因としてあると思いますが、長く続いている自粛生活の中での新型コロナに対する慣れや気持ちの緩み、あるいは多くが軽症や無症状で、しかも若い人は重症化しにくいなど、新型コロナ感染症に対する認識が不十分ということはありませんか。

横田 新型コロナ感染症で一つ問題なのは、実に症状が多彩であるということです。ですから、「高齢者は重症化しやすいので感染しないように気をつけていください」、「若い人は重症化しません」といったメッセージは簡単で分かりやすく、間違ってはいないわけです。しかし、先に述べた分母と分子のお話の通り、若い人であっても一定程度に感染者数が増えれば、重症化する可能性も増えてくるのです。後遺症に関しても、確かに残る人もいますが、残らない人もいるわけです。市民に対するメッセージの内容についてクリアな線引きも確かに必要なのですが、一律な説明がしづらく、そのうえ理解しづらいのが、新型コロナの難しい部分でもあり、その点ではメッセージとして行き届ききれていないところもあるのかもしれません。

― 感染から回復された人のコメントを聞いても、軽症や中等症という状態に対する認識にも個人差があるような印象もあります。

横田 基本的に、軽症、中等症、重症かどうかというのは酸素の問題で、酸素投与が必要なければ軽症と診断されるのです。しかし、軽症と診断された状態であっても、人によっては息苦しさを強く感じていたり、その他の症状として、かなりの高熱があったり、倦怠感がひどいような状態で、軽症のイメージとはかけ離れたつらさを感じる方も多いでしょう。軽症という言葉を侮ってはいけないのです。おそらく感染の経験がない人の多くは、ちょっとした風邪くらいの症状だろうと考えているかもしれません。もちろん、その程度で済む人もいるかもしれませんが、軽症という枠はとても広く、まさに立っていられないような状態の人でも軽症者として扱われているということを知ってほしいと思います。
 さらに、感染の拡大によって、すでに救急車の中で何時間も待機しなければならないといった病床のひっ迫状態、自宅あるいは宿泊施設での待機中および療養中の急変で亡くなる人が出たり、緊急性の高い他の病気の患者も入院できないといったことが現実に起きています。いわゆる日常あたりまえの医療が受けられなくなるということなのです。
 例えば、交通事故が起きても搬送する場所がないということも現実に起きつつありました。救急病床は新型コロナだけで満床になっているという状況が、かなり大きな病院でも起きています。通常であれば助かるような命も助からなくなるような、命の選択が迫られる医療現場が現実にあるということも知ってほしいと思います。

感染対策で大切なことは基本的なことの積み重ね

― 現在の主流となっているイギリス株をはじめとする変異株は、やはり従来株よりも感染しやすく、重症化しやすい可能性も否定はできないと思うのですが、私たち一人一人が行う感染対策について、従来通りで良いのでしょうか。新たに講じた方が良い対策はありますか。

横田 基本的には、変異株によって感染力が高くなっていようがいまいが、今までの感染対策の根本を変える必要はないと思います。ただし、これだけ感染が拡大した現実を踏まえると、明らかに感染リスクというものは1年前より上がっていると言えますので、われわれとしては効果のある対策を積み重ねていくことで、感染リスクを下げていく努力を続けていくということに尽きると思っています。  5月の初めに、西村康稔経済再生担当相が記者会見で「屋外でマスクをつけていても感染が確認される事例の報告が相次いでいる」と発言した言葉が切り取られ、「マスクをしていても感染する」という言葉が見出しで踊ったことがありました。マスクは意味がないという話にもなりかねない、ちょっと危険なメッセージだと思いました。  ここで言いたいのは、やはりマスクの効果は絶大なものがあるということです。ただし、変異株によって感染リスクはより高くなっているということも事実で、マスクの効果だけでは十分ではありませんよ、ということなのです。ですからマスクに加えて3密(3つの密)空間と言われる「密閉された室内で」「密集した状態でいて」「近い距離で密接に会話をする」という状況を回避するということも今まで通りにしっかりと行っていく。加えてワクチンというものが新たに手に入れば、さらに感染リスクは下がっていくわけです。あくまでも、これまで学んできた感染予防に効果がある方法を積み重ねていくことによって感染リスクを下げていくという考え方で、変異株も含め、新型コロナに向き合っていくということで良いと思っています。

― 例えば、マスクについて言えば、不織布マスクでなければ効果がない、あるいは二重にすると効果が上がる。または3密どころか2密でも1密でも感染すると、より強い規制が必要であるといった意見もあります。

横田 マスクに関して言われていることは、やはり不織布マスクが一番効果が高いというのは間違いありません。布マスクやウレタンマスクでは飛沫をキャッチする効果は落ちるようですし、フェイスシールドやマウスシールド単独では隙間から飛沫が漏れるので飛沫感染対策には効果が低いということは明らかになっています。二重マスクに関しては、鼻から顎まできちんとフィットさせて着用すれば不織布マスク1枚で問題ありません。二重マスクの効果については、不織布マスクをつけた上から布マスクやウレタンマスクをつけることで、不織布マスクを確実にフィットさせる効果があるということで、これについては米国CDCからも発表されています。  密閉・密集・密接という3密についても、そもそも1密でも感染リスクが高まるということは言われてきたことです。あくまでも2密、3密と、密が増えることで、より感染リスクが上がるため避けるよう気をつけましょうということで、その考え方は当初から変わっていません。  ですから、ワクチン接種を除けば、1年前の従来株のときから、われわれが行うべき感染対策は変わらず、とにかく基本を守るということに尽きるのです。

ワクチンの効果は予想以上。副反応は効果の現れ

― ワクチン接種が始まりましたが、副反応に対して不安もあるようです。変異株を含めて、その効果や有効性についてはいかがお考えですか。

横田 日本では、ファイザーとモデルナのmRNAワクチンと、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンの3つのワクチンが承認されています。それぞれに優劣をつけるつもりはありませんが、mRNAワクチンに関しては、全く思っていなかった以上に効果が高く、正直なところ驚いています。インフルエンザワクチンのことを考えると、重症化の抑制がある程度あれば価値があるだろうという程度だったのですが、臨床試験(治験)の結果を見ても、その効果は絶大と言えます。ワクチンも薬もリスク=副反応と、ベネフィット=効き目を天秤にかけて必要性が判断されます。このベネフィットがものすごく大きくなったのです。ですから、ある程度のリスクがあったとしても絶対に打つ価値があるでしょう、というのが現状なのだと理解しています。  とは言っても、やはり副反応への懸念はあると思います。ベネフィットの方が大きかったとは言え、副反応も予想よりは多いようにも思っています。その一つがアナフィラキシーです。当初、頻度的に高い印象でしたが、数字は落ち着いてきています。高齢者の方がおそらく頻度は低いと思われますので、高齢者のワクチン接種が進めば、その割合はさらに減ってくると思います。ただ、若い人ほど頻度的には高くなるため、若年層のワクチン接種が進むと割合としては逆に増えてくることも考えられます。アナフィラキシーに関しては、すぐに対応すれば問題はないとされています。ワクチン接種直後は15分~20分、あるいは30分ほど待機して健康観察が行われますし、仮にアナフィラキシーが起きたとしても、接種会場や医療機関ではアドレナリンなどの医薬品も準備されていますので、心配しなくてもいいでしょう。  また、副反応としては、注射を打った局所の腫れや痛み、全身症状として発熱、倦怠感、頭痛などの訴えが多いようです。これらは、いわゆる免疫応答が起きているという現れでもあり、副作用とは異なるものです。あくまでもワクチン接種による主作用としての反応であり、言い方を変えると、ワクチンが効いている証拠とも言っていいでしょう。免疫力が上がっているからこそ現れる症状であり、だから1回目よりも2回目の方が強く現れるのです。  一つ心配されているのが、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンで、まれではありますが接種後に血栓ができたケースが報告されているという点です。日本では今のところ使用しないと言われていますが、今後の検討課題でしょう。

変異株を発生させる感染拡大を防ぐための対策を

― 新型コロナは今後どうなっていくと思われますか。

横田 まだまだ先は読めないというのが正直なところです。やはり変異株の動きが鍵になってくると思います。北海道を例にとると、第1波はいわゆる武漢株と呼ばれたもので、第2波は欧州由来の株、第4波でイギリス株と呼ばれたアルファ株に置き換わってきたわけで、次々と感染力の強いものが発生することによって新たな変異株に置き換わっていく可能性は当然今後もあると思います。イギリスではすでにデルタ株に置き換わりつつあるという状況にあります。  今あるワクチンは絶大な効果があることは間違いないと言えますので、まずワクチンの接種率を上げることが大切だと思います。そしてより多くの人にワクチン接種が行き届いた時点で、私は振り出しに戻ったというように考えていただければよいのではないかと思っています。  ただ、今後おそらく今あるワクチンの効き目が悪い変異株に置き換わってしまうことも考えられないわけではありません。感染力が強いウイルスが入ってくると、波の大きさは分かりませんが、ある程度の波がまた来るかもしれません。しかし、感染が拡大するスピードをゆっくりと遅くすることができれば、感染者を増やさずに済むと思うのです。一つ言えることは、変異株というのは、いわゆる感染拡大が起きた地域で発生するということです。つまりウイルスが増える過程でエラーが起きるわけであり、その中で意味のあるエラーが生存競争に打ち勝っていって新たな変異株として広がって行くのです。変異株に国名が付けられている地域、いわゆるイギリスや南アフリカ、ブラジル、インドは、いずれも感染爆発が起きている地域です。変異株を生み出さないためには、とにかく感染拡大を防ぐことに尽きるのです。  ただ問題は、そのための対策が追いついていないという現状です。その意味では、まだまだ感染拡大の波を繰り返す可能性はあるのかなと思っています。

― そう考えると、全ての人にワクチン接種が行き渡ったとしても、新たに感染力の強い変異株が今後も発生するかもしれないという可能性を考えると、われわれはいつまで我慢しなければならないのでしょうか。

横田 人類の歴史は、ウイルスとの闘いの歴史でもあるのです。ワクチンに関しても、変異株に対応したワクチンの開発も進められていますし、毎年のようにワクチン接種が必要になるということも考えられなくはありませんが、せめて現在の季節性インフルエンザのようになれば、新型コロナ以前のような生活に戻れるかもしれないと思っています。  いずれにしても、少しずつではありますが、明るい方向は見えていると思います。やはり、これまで通りの感染対策というものを粛々と積み重ねて対応していくしか道はないのかなと思っています。第4波も、今ようやく感染者数が減ってきましたが、これは緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の効果だけではおそらくないだろうと思っています。これらが発出される前からの市民の危機意識の方がむしろ強かったのだと私は思っています。行政は感染対策のための手段を提供するものであって、それを実行するのは市民一人一人であり、やはり市民意識というものが感染拡大を防ぐうえで一番大きな鍵となることは間違いないと思っています。