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「100歳人生」への道のりは、一日の過ごし方にあり!

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日本医療大学総長
島本 和明
1971年札幌医科大学卒業。同大第2内科教授、同大附属病院病院長、同大学長を経て、2016年4月より現職。日本高血圧学会・日本動脈硬化学会各名誉会員。国際高血圧学会・日本老年医学会各理事。日本循環器学会特別会員ほか

平均寿命に健康寿命をいかに近づけるかが究極のテーマ。フレイルの予防と、正しい生活習慣を整えることが大切

人間は加齢とともに誰もが「フレイル=虚弱」という介護を必要とする状態に陥る確率が高まっていきます。しかし、フレイルは早期に気付き、必要な努力によって健康を取り戻すことが可能です。そのために何をすべきかを考えてほしいのです。

 厚生労働省は2017年9月に「人生100年時代構想会議」を設置しました。同年12月にまとめた中間報告の中にある海外の研究で、07年に日本で生まれた子どもの半数が107歳より長く生きると推計され、わが国は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えているとありました。確かに、私が診ている入院患者さんや老健施設の入居者さんの中にも100歳を超えた方は決して不思議ではなく、結構いらっしゃる時代になってきたことを実感しています。
 厚生労働省のまとめによると、日本人の平均寿命は19年には女性87・45歳、男性81・41歳と、女性は7年連続、男性は8年連続で過去最高を更新し、まだまだ延び続けています。ここで問題となるのが健康寿命です。健康寿命とは、自立して生活できる寿命で、寝たきりではない、介護の世話にならない寿命のことで、男女とも平均すると約10年短いです。ですから、この健康寿命をいかに延ばし、平均寿命に近付けていけるかが今後の重要なテーマとなります。
 そして、いかに健康寿命を延ばし、この差を縮められるかが、100歳人生を健康で過ごすためにも重要となるのです。その意味でも、病気や介護を要する原因に対して、必要な治療を受けることはもちろん、根本的な問題として病気にならないことが大切なのです。そして、その基本はやはり生活習慣を整えることです。

 生活習慣と言えば、食事と運動、最近は睡眠も重要といわれ、睡眠時間は長過ぎても短過ぎても良くないことが分かっています。特に北海道の場合、冬が長いため家に閉じこもりがちになり、運動不足になりやすいほか、食事も鍋料理など塩分やカロリーの摂取量が増え、太りやすい傾向にあると言えます。その結果、肥満、さらに高血圧、あるいは高コレステロールや高血糖、そこから動脈硬化が進み、いずれは心臓病や脳血管障害といった病気の発症へとつながってしまうわけです。そういった北海道の特殊性も理解したうえで日々の生活、特に冬は十分に気を付けた生活を送ってほしいです。
 その上で、さらに高齢者の皆さんに気を付けてほしいのは、65~74歳までの前期高齢者、あるいは75歳以上の後期高齢者で増えてくる「フレイル」、いわゆる「虚弱」の問題です。フレイルには3つの要素があり、「身体的フレイル」「精神的フレイル」「社会的フレイル」に分けられます。
 身体的フレイルは、例えば膝や腰が痛いといった骨や関節、筋肉の衰え、脳卒中の後遺症によるまひなども含め、物理的に動きづらくなる、いわゆる肉体的虚弱がフレイルの中では一番感じやすく、単に年のせいと見過ごされている方が多いと思われます。
 精神的フレイルは、今のコロナ禍も大きく関係してくると思われますが、年齢が進むとどうしても家に閉じこもりがちになり、その結果、意欲の低下やうつ状態、認知機能の低下が顕著に見られる状態を言います。そして、閉じこもっていると筋肉も衰え、転倒もしやすくなり、高齢者では転倒すると骨折もしやすいため、その結果、身体的フレイルにもつながりやすくなります。
 社会的フレイルは、精神的フレイルとも極めて近く、社会から孤立した状態を言います。特に男性に多く、定年を迎えて職場に行かなくてよくなることで家に閉じこもってしまうのです。中には、自分はどうしたら良いのかが分からないという方もいます。すると社会との接点が取れなくなり、それが身体的フレイルにつながり、さらに自分は孤独だと思うようになってしまうわけです。逆に女性の場合は、もともと年齢に関係なく社交的である場合が多く、そういった心配は少ないと言えます。仕事を続けられている方では心配ありませんが、そうでない方は、ボランティアや趣味、あるいは新たな仕事を見つけるなど、とにかく外に出て、社会との接点を作ることが大切です。男性はこの社会的フレイル、そして女性は身体的フレイルからスタートすることが多いようですが、スタート地点はそれぞれ違っても、これら3つのフレイルが常に悪循環して進んで行くことで最後には要介護という状態に至ってしまうわけです。
 特に男性は、定年後の準備をしっかりと考えておくことが必要だと思います。定年後にずっと家に閉じこもってしまうと、一緒にいる奥さんも大変です。例えば、今までは朝晩の2食でよかった食事も3食作らなければならないなど、お互いに初めての経験をします。それらをうまく解決できれば良いのですが、そうでなければお互いにストレスもたまり、男性の場合は社会的フレイルだけでなく、場合によっては奥さんから定年離婚を言い出されないとも限りません。そういったことも理解しておくことが大切でしょう。

 フレイルは、このように3つの要素からなる多面性があり、さらに健康と要介護の中間の時期の状態を言います。ただし、大きな特徴として可逆性があるため、高齢者の場合には、早期の段階のフレイル、あるいは心身のちょっとした衰えを感じるようなプレ・フレイル(前虚弱)の状態に早く気付き、正しい食事と適度な運動、質の良い睡眠を心掛けましょう。場合によって薬が必要になることもあるかもしれませんが、そういったことを意識することによって、少しでも健康な状態を取り戻し、できる限り要介護状態になることを避けるのが大切です。65歳以上の全ての方が必ずフレイルになるわけではありません。100歳でも普通に歩けている方もいます。あくまでも年齢が進むにつれて圧倒的にその割合は増えていくことを認識していただきたいのです。
 また、フレイルには可逆性があると言いましたが、そもそも若い時期からそうならないような生活習慣を心掛けることも大切です。

 若い方であれば、塩分を多く取っても、運動しなくても、太っていても、動脈硬化、あるいは脳や心臓に症状が現れるまでにかなりの時間、年月がかかります。とりわけ30歳代では、ある程度の乱れた生活習慣を送っていても、自分は病気にならないと思いがちです。心配な病気になるとしても30年先、40年先のことと、なかなかピンと来ていない方が多いわけです。しかし、40歳代、50歳代と年齢が上がるにつれてほぼ間違いなく有病率、生活習慣病は増えていきます。30歳代の方は、現時点では体調の悪い方が少ないため何をしても大丈夫と思っているかもしれませんが、乱れた生活習慣の蓄積が40歳代、50歳代、60歳代、70歳代へと進むにつれ、確実に動脈硬化は進行し、脳や心臓の病気、あるいは糖尿病などの生活習慣病を起こしていくことを分かってもらうことが何よりも重要なことだと思います。死亡原因となるような病気や、生活習慣病を起こさないために食事や運動、睡眠といった生活習慣を正しく整えることは、まさに「転ばぬ先の杖」を持つということにつながります。転んでからでは遅いということを理解してほしいのです。
 40歳代になると、職場での健康診断が本格的に始まることから、少しずつ病気を認識される方が増えてくると思います。とは言っても、健康診断などで血圧が高め、血糖値が増えている、脂肪が多い、肥満ぎみなどと指摘されても、実際に動脈硬化までは起きていない方が圧倒的に多いと思います。ですから、基礎疾患には気を付ける状態の方は増えてくるでしょうが、脳や心臓の病気に関してはまだ先のこと、大丈夫だと思って油断している方は結構多くいらっしゃいます。しかし、50歳、60歳までの10年、20年は思いのほかすぐであるということをしっかりと認識していただきたいのです。
 50歳代の方は、60歳代はもうすぐ先に見えてきますから、病気に対する意識は高くなってきていると思います。そして実際に60歳代、70歳代になると病気ではなくても、フレイルになってしまうことがあるわけです。ですから50歳代の方には、フレイルの一歩手前であるプレ・フレイルということを意識した生活をしてほしいと思っています。

 生活習慣で気を付けるべき基本は、食事と運動、そして睡眠の3つです。若い時から、食事は塩分とカロリーに気を付けることと、運動習慣を付けること。これは40歳代、50歳代になっても同じことですが、若い時ほど将来のために生活習慣を是正していくことが大事です。40歳代、50歳代になってくると、病気を現実の問題として捉えるようになってくるのですが、それでも生活習慣を是正できない方は、必ず病気になっていきます。健康診断の結果によっては、より厳しく生活習慣を改善する必要があるでしょう。しかも生活習慣は、年齢が進むにつれて是正しにくくなっていくことも忘れないでほしいと思います。
 もう一つ、今、大きな問題として考えなければならないのがコロナ禍という現状です。新型コロナウイルスの感染拡大は、生活習慣病やフレイルも含め、全てに悪い影響を及ぼしていると言えます。

 コロナ禍にあって必要なことは自粛です。緊急事態宣言が発令されたときに言われたことは、3密を避けることと、不要不急の外出は避けて家にいるということでした。それが3月から5月の末まで続きました。これだけの長い期間、家に閉じこもらなければならないという経験はいまだかつてなかったと思います。緊急事態宣言解除後も完全に落ち着いたかというと、今も本州では第2波、北海道も一時落ち着きましたが第3波が起きているかのような状況が続いています。既にGoToキャンペーンは始まっていますが、国民の心の中にはまだ密を避けようという気持ちや、ストレスもまだまだ持っていると思うのです。その中には、心配を抱えながら出掛けている方もいれば、やっぱりまだ行かないという方もいるなど、緊急事態宣言下に近い状態が精神的には続いているように思うのです。すると、どうしても家に閉じこもりがちになり、体を動かさない状態が、まだしばらく続くと思われますので、いわゆる身体的フレイルが心配されるのです。
 さらに、コロナ禍にあることの影響によって、うつ状態にまでなる方もいるようで、明らか精神的フレイル状態を悪くしていると思います。また、自粛という行動自体が社会的フレイルですので、フレイルの3つの要素がコロナ禍の影響で全て増強される方向にあると思っています。ですから、そういったこともしっかりと認識しながら、家の中でどのように過ごすかが大切になるわけです。
 家の周りを含め、人の少ないところを散歩することは全く問題ないわけですし、状況によってはマスクを外しても良いでしょう。体を動かせる方法をどれだけ自分で考えられるか。激しい運動である必要はありません。体を動かすことで精神的な落ち込みも解消できていくと思います。もともと高齢の方は、加齢が進むほど精神的フレイル、うつ状態のようになることは多いため、その場合には、家族、あるいは友人・知人が支えてあげ、密は避けながら外に出かけるよう導いてあげることも必要だと思います。とにかく人や社会との接点を多くするという努力は欠かせません。それは電話でも手紙でも良いのです。
 新型コロナの感染がどこで増えているかというと、やはりマスクを外して食事をしながら大きな声で話をする、あるいはカラオケなども含め、そういう状況であることが確率的にもかなり高いということが分かってきました。マスクの着用と手洗いの徹底、3密を避けてソーシャルディスタンスに気を付けていれば、予防的には非常に有効であることも分かっていますので、そういうことを踏まえたうえで社会的孤立にならないよう、接点を作るよう心掛けてください。コロナ禍の影響で進むであろう3つのフレイルになる条件をいかに克服できるかが今とても重要なことだと思っています。
 もう一つ、コロナ禍に関して言えば、持病のある方など、外来で感染者がいたら困ると心配されている方がたくさんいます。ただ、幸いなことに電話による遠隔診療が保険で認められ、薬の処方も可能となりましたので、私も有効に使わせていただきました。生活習慣病は急に症状が現れることがないため、少しくらいであれば薬を飲まなくても良いだろうと思う方がいるのですが、いずれ必ず困ることになります。その意味では、直接診療を受けられなくても、薬を続けて飲むことができることは非常に役に立ちました。また、対面では緊張するのか、電話だとよく話される方が多く、思った以上にコミュニケーションが取れるということが一つのメリットだと感じました。だからと言って、遠隔診療だけをずっと続けても良いわけではありませんが、メリットとデメリットを医者側も患者さん側も十分に理解することによって「withコロナ」時代の新たな診療スタイルの選択肢として有効に活用することは可能でしょう。
 もう一つ、定期健診はほとんど受診されていませんし、子どもの定期ワクチン接種もかなり減っています。特に定期ワクチン接種は、将来的に発症すると困る病気への備えなので、遅れてでも良いので必ず受けていただきたいと思います。

 冬の北海道は、寒さで血圧も上がりやすく、脳卒中や心筋梗塞も発症しやすい時期となります。しかし、今はどうしても新型コロナを心配される方がほとんどでしょう。寒さに加え、家に引きこもりがちになることが予想されますが、その中でも毎日の生活習慣と、フレイルになる3つの要素を意識して、できることをしっかり行うということを忘れずに、日々の生活を送っていただきたいと思います。

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