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約7割が前兆なく訪れる
心筋梗塞

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札幌医科大学名誉教授
三浦 哲嗣
1980年札幌医科大学医学部医学科卒業。2010年同大学医学部内科学第2講座教授(13年より講座名改称)、16年同大学附属病院副院長、18年同大学医学部長、21年4月より名誉教授

加齢と生活習慣が動脈硬化の大きな原因。加齢以外の危険因子は改善が不可能ではありません。
まずは自分のリスクを正しく理解することが大切

血管の老化と動脈硬化の進行を遅らせる生活習慣を心掛けよう

 心筋梗塞とは、心臓に血液を送る冠動脈に動脈硬化が起き、その部分に血の塊(血栓)ができて血管が詰まり、血液が送られなくなった結果、心臓の細胞が死んでしまう状態を言います。
 一般的に動脈硬化と言えば、血管が厚く硬くなって、血管内が狭くなっている状態がイメージされますが、実は心筋梗塞のうち、約7割の患者さんで血管はそれほど狭くなっていないところで心筋梗塞が発症しているのです。つまり、動脈硬化はあるものの、心臓の血流が不十分で胸痛や胸の圧迫感を感じるといった狭心症などの症状もなく、普通に生活しているところに予想外に急に起こる心筋梗塞が大きな問題なのです。かつては急性心筋梗塞を発症した方の約7割は病院にたどり着く前に亡くなっていました。ただし、血管が詰まったからといってすぐに心臓の細胞が死んでしまうわけではありません。亡くなる原因の多くは不整脈によるもので、それによって血液を送り出せなくなり、他の重要臓器にも血液が行かなくなり、やがて心臓が完全に停止して亡くなるのです。
近年ではAEDなどが公共施設をはじめさまざまな場所に設置され、応急処置によってかなりの方が救われるようになってきました。
 しかし、日本人の死亡原因の上位に位置していることに変わりはありません。その理由として考えられることは、まず動脈硬化は加齢にともなう病態であるため、高齢者人口が増えている現状から見ても、動脈硬化に罹患する人口の絶対数が多いということが挙げられます。もう一つは、動物性脂肪の多い高カロリーな食生活の欧米化や運動不足、肥満や喫煙など、動脈硬化を促進する生活習慣も大きな原因と言えます。
「人は血管とともに老いる」という有名な言葉もあるように、人間は加齢からは逃れられません。100歳人生を目指そうとすれば、動脈硬化があまり進まないような生活習慣を心掛けることが大切です。最近では動脈硬化のある血管に加わる機械的なストレスを減らすように、血圧を下げたり、血糖値やコレステロールを下げることによって、冠動脈の硬化部分をもろくないものにして、亀裂が入りにくいようにすることができるといわれています。
 その意味では、高血圧の方であれば、1日6gを目標とした減塩が重要となります。現実にはなかなか大変なことと思われがちですが、ちょっとした工夫で減塩することは可能です。例えば麺類の中だけでも、うどん、そうめんは塩分が高いのですが、十割そばは塩分ゼロ、パスタもゆでる際に塩を加えなければほぼゼロです。または、だしの分量を多くすることで塩が少なくてもおいしく食べられるといった工夫を凝らすことも良い方法の一つだと思います。さらに、最近はさまざまな減塩の商品も数多く販売されています。
 実は私も朝食や昼食には、つけ汁をほとんど使わないで十割そばを食べたり、塩分の少ないコーンフレークなどのシリアルを中心にすると、塩分は1g程度には抑えることができます。
そして朝と昼は減塩を意識していますが、夜は普通に食べています。それでも血圧を下げることに成功しました。仕事や家庭の事情に合わせて、1日トータルの塩分摂取が6~8gになるように工夫してはいかがかと思います。わが家ではしょうゆもほとんど使っていません。ぽん酢を少し使う程度です。それに慣れてくると、ちょっとしたものでも塩辛く感じてしまいます。そういう無理のない切り替えと先程お話した朝食や昼食の工夫で目標達成は可能だと思うのです。
 日本高血圧学会のホームページには「食塩含有量の少ない食品の紹介」がありますし、日本高血圧協会のホームページには「食塩無添加日記」といったブログを書かれている先生もいたり、各メーカーでもホームページで減塩レシピを紹介していますので、そういったものを参考に自分に合った工夫で取り組んでみてはいかがでしょうか。
 脂質やカロリー摂取量の制限も動脈硬化を予防するためには大切です。ただし、後期高齢者の方ではこの点で注意が必要です。若い方の場合には、ファストフードやコンビニのお総菜などを全く食べないという方は少ないと思いますが、今はカロリーや成分が表示されていますので、そういうものを参考にしていただければ良いかと思います。一方で高齢者の方の場合、脂質やカロリーを制限することによって、必要な栄養まで摂取できずに筋肉が減ってしまって運動ができなくなるといった、フレイルという状態に陥ってしまう心配があるのです。全ての年齢の方で減塩は大切ですが、高齢の方の場合には、一定の栄養やカロリーはきちんと摂取していただくとともに、運動もしっかり行うことが、血管の老化を進めさせないためにも大切ですので、かかりつけ医などに相談しながら正しく生活習慣の改善を心掛けることが大切です。

自分のリスクを正しく理解し、
自分に必要な努力目標の実践を

 心筋梗塞の症状は、狭心症とは異なり完全に血管が詰まってしまうため、胸の痛みも狭心症では5、6分で収まる一時的なことが多いのに対して、30分以上と長く続くのが特徴です。また胸痛以外にも、冷や汗が出る、血圧が下がって気が遠くなったり、失神することもあり、不整脈が出たりもします。また、無症候性虚血あるいは無痛性虚血と言う、心筋梗塞でも胸痛を感じない方が約1割で見られます。主に糖尿病で、痛みを感じる神経が障害されている方に多く、特に高齢の方は注意が必要です。
 痛みの場所は、主に胸の真ん中あたりが締め付けられるような感じや、首を絞められるような痛みや圧迫感、胃と間違いやすいのですが心窩部(みぞおち)に感じる痛み、さらに肩こりやむくみなども注意した方が良いでしょう。特に、少なくても複数の危険因子を持っている方は、何らかの体調不良があれば自己判断はせずに、一度専門医に相談した方が良いでしょう。
 心筋梗塞や動脈硬化の危険因子は、主に高血圧、高コレステロール、高血糖、あるいは家族歴、加齢などがあり、これらの危険因子が何もなく、突然に起こることは非常にまれです。そして危険因子は、年齢を除けば、改善不可能なものはほぼないと言っていいと思います。生活習慣病の管理や生活習慣の改善に向けた指導は、患者さんに対して医師や看護師などから一方的になりがちです。それでは、なかなか実効性がともなわず、そこに一番大きな問題があったと思われます。しかし最近では、当病院でも、医師や看護師、管理栄養士や理学療法士など、多職種による相談やサポートによって、知識や技術を教えるだけという一方的なコミュニケーションになりがちな従来のティーチング方式から、一人一人の考え方や生活環境に合わせて双方向のコミュニケーションによって自主的なやる気や能力を引き出すコーチング方式という、スポーツ選手の指導方法でも知られている手法によるアプローチによって、生活習慣の改善を効果的に進められるような、患者さん自身による行動変容に取り組んでいます。
 また、少し前のデータですが、狭心症や心筋梗塞で入院した方を調べた結果、実は糖尿病だったという方が多く、入院するまで糖尿病という危険因子があることを知らなかったという方も3分の1以上いました。
 その意味では、100歳人生を目指すのであれば、まずは定期的に健康診断を受けて自分の健康状態を知っておくことが大切だと思います。または、かかりつけ医などから血圧やコレステロール、あるいは血糖値が少し高めであると指摘されたら、今の自分のリスクはどれくらいあるのかを正しく理解することが大切です。その上で、自分のリスクを除くために必要なことは何かを、かかりつけ医などにきちんと話を聞き、相談しながら必要な努力目標を立て、それを他の方々の協力も得ながら実践していくことが、健康寿命を延ばし、100歳人生を送るためにも有益なことと言えるでしょう。

「100歳人生」への道のりは、一日の過ごし方にあり!
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