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2人に1人が罹患、3人に1人が死亡
がん(悪性腫瘍)

医師画像
北海道対がん協会会長
北海道医師会会長
長瀬 清
1938年8月9日生まれ。69年北海道大学大学院医学研究科内科系卒業。同大学医学部付属病院助手、講師を経て83~2010年まで医療法人社団長瀬内科医院院長。07年より北海道医師会会長、14年より北海道対がん協会会長など公職多数

今や生活習慣病と言っても過言ではない「がん」。
医療の進歩や、初期段階での早期発見で治癒も期待できますので、定期的ながん検診の受診に理解を

がんになりやすい北海道民の生活習慣
免疫力を高め、がんに負けない体づくりを

「がん」は、日本人の死亡原因の第1位で、わが国では国民の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなる時代にあります。今や決して特別な病気ではなく、生活習慣病と言っても過言ではないほど、身近な病気と言えるでしょう。特に北海道は、がんの罹患率・死亡率ともに全国でも上位に位置しているのです。
 がんは、遺伝子が傷つくことでできた異常な細胞が増殖することでかたまり(腫瘍)を作り、周辺の正常な細胞の栄養を奪いながら全身に広がって行きます。細胞ががん化する原因は、喫煙や食生活、運動不足等の生活習慣、ウイルス感染、遺伝的要因などがあります。また、年を取れば取るほど、遺伝子に傷がつ いた細胞ができやすく、加齢とともに増えてくる病気とも言えます。健康寿命で100歳人生を目指すのであれば、まずはがんにならない生活ということを心掛けていかなければなりません。それと同時に、早期発見・早期治療ということも大切で、少しでも初期の段階でがんを見つけるためには、「がん検診」の重要性ということを多くの方に理解していただきたいのです。
 そこで、がんにならない生活とはどのようなものかということですが、国立がん研究センターから発表されている「がんを防ぐための新12カ条」によると、①たばこは吸わない、②他人のたばこの煙を避ける、③お酒はほどほどに、④バランスのとれた食生活を、⑤塩辛い食品は控えめに、⑥野菜や果物は不足にならないように、⑦適度に運動、⑧適切な体重維持、⑨ウイルスや細菌の感染予防と治療、⑩定期的ながん検診を、⑪身体の異常に気が付いたら、すぐに受診を、⑫正しいがん情報でがんを知ることから、ということが言われています。
 これらのことから言えば、北海道の方は比較的運動をしない、野菜を食べない、喫煙率は高い、さらに検診受診率は低く、まさに、がんになりやすい生活習慣の傾向にあると言えます。私たちの体には、免疫監視機構があって、がん細胞ができても見つけて退治してくれます。免疫力が低下するとがんの発症につながり、中でも食事と運動、最近ではよく眠るということも含め、これらは人間の免疫力を高めるためにも重要な要因と言えます。その意味でも、まずはがんの発症を抑えるための生活習慣を心掛けることが大切であり、特に、今のコロナ禍にあっては、家に引きこもりがちな傾向が見られるため、可能な範囲でもできるだけ適度な運動を行うよう心掛けることは大切と言えるでしょう。
 私自身も、歩くということを一番大切にしていて、万歩計を付けて毎日1万歩は必ず歩いています。歩くことで脳の活性化にもなりますし、考え事をするのにもいい。食事は家内が考えてくれています。睡眠は、一般的に8時間くらいが良いといわれていますが、私は深夜0時過ぎに寝て朝5時には起きています。それでも、ぐっすり眠れていて、朝起きた時には「よく寝た」と感じられるので、いわゆる睡眠の質が良いのだと思います。要するに規則正しい生活をするということです。定年になったからと言って何もしないのではなく、できることがあるのなら続けた方が良いと思っています。よく食べて、よく動き、よく眠ることが大切なのではないでしょうか。

がんで死なない、健康長寿のためにも
がんの予防と、検診による早期発見を

 しかし、生活習慣を改善しても、100%がんを防ぐことができるとは言えません。そこで重要なのが「がん検診」なのです。現在では、仮にがんが見つかっても、治療法の進歩により、特に進行していない初期段階で見つけることができれば、適切な治療を行うことで非常に高い確率で治癒することも可能となってきました。最近は治療効果の高い抗がん剤も複数使えるようになっています。さらに、手術支援ロボットのダ・ヴィンチの登場で、例えば、骨盤の一番深いところにあるため開腹手術では見にくかった前立腺がんの治療も、数カ所の小さな穴からカメラや鉗子、ハサミなどを入れて行う腹腔鏡手術により非常に見えやすい状態で、より正確な治療が可能になっています。私が医者になった当時(1969年)は、がんが見つかっても患者さん本人には告知せず、別室でご家族だけに病状や、今後の生活についてお話していました。しかし、化学療法の進歩や、がん検診の普及など、がんが治せるようになってきたことで、ようやく患者さんにも直接話せるようになったわけです。
 そして、がんで死なないために、健康で長生きでき、人生を楽しむためにも、がん予防はもちろん、がん検診によって、がんを早く見つけて早く治すということが、私たち北海道対がん協会の願いなのです。わが国には、日本対がん協会をはじめ、名称は異なるものの各都道府県に健康増進を目的とするさまざまな組織があります。「対がん協会」という名称を冠する組織は、全国に岩手県、宮城県、静岡県、大阪府、そして北海道の5つがありますが、当協会は1929年創立という、わが国初の「対がん協会」なのです。
 その理由には、幻のノーベル賞とも言われた人工がんの発生に成功(1915年)した市川厚一博士(初代理事長)と山極勝三郎博士、シャールラッハロート卵管がんの大野精七博士、家畜肉腫の藤浪鑑博士の高弟の今裕博士(初代会長)といった、当時のがん研究の最先端を行く人材が北海道に集まったことが挙げられます。その意味でも、当協会の設立以来、延々と続く「がんを撲滅したい」という先人の思いを受け継ぎ、がんに関する正しい知識の普及啓発、検(健)診事業、がんに関する調査・研究を3本柱に、さまざまな事業に取り組んでいます。
 昨今では、がん対策基本法の策定・施行にともない、国を挙げて、がん対策の総合的かつ計画的な推進に取り組み始めています。北海道でも「がん対策推進条例」が施行され、札幌市では「がん対策推進プラン」を策定しており、当協会としては行政機関とも協力し、がん予防とがん検診受診率の向上に努めています。さらに現在では、医療や行政だけでなく、がん患者さんやそのご家族を中心として、医療と行政、議員や企業、メディアなど、組織の枠を越え、がん対策の関連情報の提供や、他地域からのがん対策の好事例などを学び、北海道のがん対策の向上を目指すことを目的とする、北海道がん対策「六位一体」協議会を2016年に設立し、北海道におけるがん医療と療養生活の均てん化についてなど、道民みんなでがんについて考えていきましょうということで、年1回「北海道がんサミット」を開催するなど、全道レベルでがん対策に取り組んでおり、より多くの道民の方々にがん予防、がん検診の大切さについて理解が得られるよう今後とも努めてまいります。
 がんは、初期の段階のものを早期に見つけることができれば治癒が期待できる病気です。日々の生活習慣とともに、がん検診も生活習慣の一つに位置付けられればと願っています。

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