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「100歳人生」への道のりは、一日の過ごし方にあり!

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北海道歯科医師会 常務理事
田西 亨
明海大学歯学部卒業。同大同窓会北海道支部副会長。ピープル歯科医院長。一般社団法人北海道歯科医師会常務理事。一般社団法人日本学校歯科医会広報委員。札幌市北区保健センター1歳6カ月歯科健診医。札幌市立光陽中学校学校歯科医

口から始まる健康寿命の延伸を実現させるためにも定期的な歯科健診と、オーラルフレイルの予防や改善が重要

80歳で20本以上の自分の歯を保つ高齢者が増えていますが、北海道は全国平均を下回り、健診受診率など、口腔ケアに対する意識が低いのが実情です。100歳人生を健康に過ごすためにもお口の健康について真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

 高齢化が進む現在において、お口の機能を保つことの重要性は以前から指摘されてきています。日本では、80歳になっても20本以上の歯が残せれば、食生活はほぼ満足することができるといわれ、1989年から厚生省(現厚生労働省)と日本歯科医師会が「8020運動」を推進し、生まれてから亡くなるまでのライフステージで健康な歯を保つことの大切さと、そのためにも日々の口腔ケアによる予防の大切さを提唱してきました。その成果は、日本全体で8020達成者が50%以上となっています。しかし、北海道では2018年で40・0%、全く同様の調査内容ではありませんが、19年は38・1%となっています。
 また、北海道の定期歯科健診受診率も、18年32・6%、19年33・2%と約3人に1人ですが、全国平均は49・0%で約2人に1人(16年5月26日、日本歯科医師会調査結果より)となっています。同様に歯周病検診(40、50、60、70歳などを対象とし、詳細は自治体によって異なります)や、北海道歯科医師会で勧めている事業所歯科健診の受診率もまだまだ低いのが実情です。
 この他にも、18年度の学校保健統計調査によると、12歳児の永久歯の1人当たりの平均むし歯数(喪失および処置数を含む)は全国平均で前年度より0・08本減って、0・74本となっていますが、北海道は平均以下で、常に最下位争いをしているような状態です。ただし、全ての12歳児を調べているわけではなく、調査対象として抽出する地区や学校によっても差が見られ、例えば札幌市内だけでも中央区の子どものむし歯はほぼゼロに近いのですが、別の地区では1人で何本もむし歯がある子どもがいたりもします。私が子どもの頃は、学校歯科健康診断でむし歯が見つかると、治してくださいという紙を渡され、歯科医院で治療を受けて印鑑をもらって学校に提出していましたが、現在ではプライバシーの問題など、紙を渡すだけで治療したかどうかをチェックしている学校は少ないです。私も歯科健康診断に行っていますが、治療されないまま放置されていることが多い状態です。
 それ以前に、法的健診である1歳6カ月児健診や3歳児健診の受診率も100%ではありません。背景には、ネグレクトや児童虐待が隠れているケースもあり、3歳でむし歯になるのは子どもが悪いわけではないのです。その一方で、親御さんの要望もあり、札幌市では5歳児も無料で健診をしようという動きがあります。さらに、保育園や幼稚園では定期健診も行っていますが、食後にほぼ全てで歯みがきをしており、子どもから「小学校ではなぜ歯みがきができないの?」という声も上がっていると聞きます。東京都などでは行っている小学校も多くあり、やはり地域差や学校の考え方も含め、北海道の歯の健康に対する意識はまだまだ全国的には遅れていると言えるでしょう。
 私も1歳6カ月児健診に行っていますが、お母さん方に札幌市ではフッ化物塗布も低料金で受けられるようになっているため、ぜひ受けに行ってくださいとお話するのですが、なかなか行く方が少ないのです。そういった親御さんの多くは、「歯科医院は痛くなったら行くところ」という古い考え方が当たり前と考えられていた世代の親御さんに育てられてきた方が多く、その結果、自分も子どもに対して同じような育て方をしてしまうという「負のスパイラル」が続いている状態があり、大きな課題となっているのです。その意味でも、やはり子どもを守ろうとするならば、親御さんの教育、さらには親御さんを育ててこられたおじいさん、おばあさん世代も含めて教育していかなければならないと思います。
 最近では、自治体によって妊娠されたら無料で歯科健診が受けられる券を母子手帳に付けたり、札幌市では各地区の保健センターで母親教室を開き、むし歯予防について学んでいただいたりするなど、行政でもいろいろと取り組んでいます。20年度からは学習指導要領が改定され、これまでの学校歯科医がむし歯予防などの講話を行い、子どもたちがそれを聞くという一方通行の講義形式から、子どもたち自身が事前に歯に関して勉強し、歯科医に質問しながら問題を解決していくというアクティブラーニングという学習形式に変わりつつあります。子どもたち自身の考え方が変わっていけば、逆に親御さんの歯の健康に対する意識も変わっていくのではないかと期待をしています。

 乳幼児期の法的健診を含め、小学校入学時から高校卒業までは学校歯科健康診断を受けることができます。しかし、大学ではほぼゼロに近いですし、大人になってからは、勤務した職場での定期健康診断で受けることになりますが、事業所健診を含め、会社の実施する健康診断に歯科健診は含まれていないことが多く、自ら各自治体が実施する成人歯科健診(自治体により名称は異なります)を受けなければなりません。ただし、歯科健診は法的に義務付けられているものでもなく、意識を変えていただくことは容易なことではないかもしれません。
 さらに、「毎日歯みがきをしているから自分の歯はきれいだ」と思われている方が多いようですが、実際に歯みがきで落とせている汚れ(歯垢=むし歯や歯周病の主な原因)は約60%というデータも出ています。最近では、それを補助するためにフロスや歯間ブラシを使われている方も増えていますが、どうしても歯石などがたまるため、自宅で行うセルフケアと、歯科医院での定期的なプロケアの両方を行うことがお口の健康のためにも理想的だと思います。
 また、日々の口腔ケアについては、お口の健康だけでなく全身の健康にも影響することが分かってきています。かつて「人は足から老いる」と言われましたが、最近は「人は口から老いていく」と言われ始めています。それが「オーラル(口腔)フレイル」という考え方です。
「フレイル」とは、年齢を重ねて筋力や認知機能、社会とのつながりなど、心身の活力が低下した状態、いわゆる「虚弱」を意味します。そして多くの健康な方がこのフレイルという段階を経て要介護状態に陥ると考えられています。
 オーラルフレイルは、口腔機能の虚弱です。「滑舌の低下」「食べこぼし」「飲み物などでむせやすくなる」「噛めない食べ物が増えた」「口が乾燥しやすい」など、口腔機能の低下による要介護の一歩手前の段階を言います。
 さらに、口腔機能の低下は、死亡原因として増えている誤嚥性肺炎を起こす要因にもなるほか、歯周病が全身の健康に及ぼす影響についてもさまざまなことが分かってきています。特に生活習慣病の一つである糖尿病の合併症とは大きくリンクし、動脈硬化やそれにともなう大血管障害、さらには認知症などへの影響も危惧されています。
 しかしながら、オーラルフレイルは健康と機能障害の中間に位置付けられ、可逆的であることが大きな特徴の一つとなっていることから、適切な対応を行うことで、再び健康な状態に戻せることが期待できるといわれています。その意味でも、オーラルフレイルの状態に早く気付くことが重要となるのです。
 北海道はかかりつけの歯科医を持たれている方は半分もいません。今のコロナ禍にあっては、自己判断で受診を控えている方も少なくありません。しかし、痛みや腫れなどを放置すると、重症化するだけでなく、全身の健康にも影響を及ぼします。健康長寿で100歳人生ということを考えるならば、自宅での正しいセルフケアと、歯科医院での定期的な健診、さらに口腔機能を維持し、オーラルフレイルを防ぐための指導など、何でも相談でき、コロナ禍にあっても安心して受診できる、そんな自分に合ったかかりつけの歯科医を見つけることから始めてはいかがでしょうか。

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