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うつらない、うつさないため
正しく知り、正しく怖がる

新型コロナウイルス

 中国湖北省武漢市が発生源といわれ、日本ではクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号での集団感染があり、その後、全国に広がった「新型コロナウイルス(COVID-19)」。
 北海道では「さっぽろ雪まつり」を境に全国的にも早くから感染者が発生したことから、2020年2月28日に北海道知事が独自の「緊急事態宣言」を発表。3月19日に終了となるが、4月に入って再び感染が拡大、いわゆる第2波が訪れる。時を同じくして全国各地でも感染の大きな波が起き、政府より4月7日に7都府県に「緊急事態宣言」が発令。同16日に宣言を全都道府県に拡大。北海道は特定警戒都道府県に指定された。
 5月14日に39県で宣言解除、同21日に関西3府県、同25日に残された北海道、東京など5都道県の解除をもって緊急事態宣言の全面解除となった。
 しかし、新型コロナウイルスの感染が終息したわけではない。全国的には第2波、北海道では第3波への備えを怠るわけにはいかない。
 感染予防のためのワクチンや効果の高い治療薬の開発が待たれるが、新型コロナウイルスの存在を意識しつつ健康を守るための「新しい生活様式」を心掛けることが今、私たち一人一人に求められている。
(取材日・20年5月26日)

横田 伸一氏
札幌医科大学医学部
微生物学講座教授
横田 伸一
1985年北海道大学理学部化学科卒業。87年同大大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。住友化学工業㈱生命工学研究所、住友製薬㈱総合研究所、㈱エイチ・エス・ピー研究所を経て、2000年札幌医科大学医学部微生物学講座、13年より現職。日本細菌学会、日本感染症学会評議員ほか。薬学博士(東京大学)

世界中に猛威を拡大。
新型コロナウイルスの実態とは?

 新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)を含め、人に感染するコロナウイルスは現時点において7種類が知られています。そのうちの4種類は冬期間などに誰もがかかる風邪症候群、いわゆる普通の風邪を引き起こすコロナウイルスです。そして残りの3種類が高病原性型と言っていいサーズコロナウイルス(SARS-CoV=重症急性呼吸器症候群)、マーズコロナウイルス(MERS-CoV=中東呼吸器症候群)、今回の新型コロナなのです。新型コロナは正式にはサーズコロナウイルス2型(SARS-CoV‐2)という名称がついており、サーズに近い性格のウイルスと言えます。コウモリ由来のコロナウイルスと近縁であることが分かっており、特定はされていませんが、他の動物を介して人に感染したのだろうと考えられています。
 ちなみに、サーズは約半年で終息し、その後一切、症例の報告がなく、根絶されたとみなされています。マーズは時々、散発的な発生が起きますが、ヒトコブラクダとの接触で感染するといわれており、中東諸国以外の発生は時々飛び火する程度に収まっています。
 総括すると、新型コロナが取り立てて特別なウイルスではないということです。一つ特徴を挙げるとすれば、普通の風邪症状で終わる軽症者や無症状の方がかなりいらっしゃるその点が、このウイルスを非常に厄介なものにしていると言えます。サーズやマーズは、感染した方はほぼ発症し、多くが重症化するのですが、新型コロナは見えない感染者が大多数を占めており、そのことが感染対策を非常に難しくしているのです。
 当然のことですが、サーズの場合は発症者さえ封じ込めれば終息します。ところが新型コロナは症状の見られない、感染者と分からない感染者が一定数いるというところが大きな問題で、一度は収束に向かっていると思われた北海道で第2波が起きたのは、多数の軽症あるいは無症状の本州や海外からの来道者がウイルスを持ち込んだと考えられるわけです。それらが分からないうちにじわじわと広がって行き、各地で火の手が上がったというわけです。その時点では既に市中感染が進んでいるために対策の講じようがなくなるわけです。
 現実的には不可能ですが、全道民に検査を行うくらいのことをしない限り、感染者全てを封じ込めるという対策はできません。ただし、PCR検査も感染者を100%検出できるものではありません。ですから今このときにも軽症や無症状で感染していることに気が付いていない方が市中にたくさんいるだろうということです。

3密とソーシャルディスタンス。
対面での会話がリスク

 専門家会議やクラスター対策班による地道な試行錯誤の結果として、市中での感染拡大の原因の一つに「夜の接客をともなう飲食店」が大きく関与していることにたどり着きました。そういった場は、お店とお客さんの信頼関係もあって、お互いの情報を公開したがらないということもあります。従って、ある種のブラックボックスとなっていた可能性があります。そのため感染経路がたどれなくなる感染者を作ってしまい、クラスターの特定を難しくしていたのではないかと思うのです。クラスターが特定できれば封じ込め対策が講じられ、感染拡大を防ぐことができますが、それがなかなか難しいのが「夜の接客をともなう飲食店」の現状だと思うのです。
 これまでに分かってきたことは、3密(3つの密)空間と言われる「密閉された室内で」「密集した状態でいて」「近い距離で密接に会話をする」という3つがそろう場所ではクラスター(感染者集団)発生のリスクが高くなることです。そこにプラス「長時間いる」ということになると、さらにリスクは高くなるわけです。感染拡大のリスクが高い場所としては、1番目が「大規模なイベント」で、これは中止することで解決しました。2番目が「病院や高齢者施設」で、感染対策が徹底的に行われました。3番目の「接客業」は営業自粛という対策がとられました。そして4番目が「家庭」なのです。これら4つの空間をいかに制御していくかが新型コロナの感染拡大対策に非常に有効だろうとされたわけです。
 しかし、いつまでも社会を閉じておくわけにはいきません。社会や経済が疲弊してしまい、かえって国を混乱に巻き込むことにもなりかねません。そこで4つの空間の中で感染拡大の確率が低いものから順次解除していこうとなっているわけです。イベントは小規模のものから、接客業も普通の飲食店であれば必要な感染対策を講じることで営業が認められました。ただし、ライブバーや密接に会話をするようなスナック・バー・クラブといった飲食店の自粛要請は札幌市を含む石狩管内地区のみ解除されませんでした(20年5月26日現在。6月1日午前0時全面解除)。 
 もう一つの問題として残るのが家庭内感染です。特に北海道の住宅は構造的に気密性が高く、冬は暖房のある部屋に大多数の家族が集まるような状況の中では感染のリスクは非常に高くなります。ですから、「密閉空間を開放するために、こまめな換気を」ということが大切になるわけです。あるいは風邪のような症状がある方は別室で休んでいただくようにするなど、「密集しないよう、人と人の距離をとりましょう」、いわゆる「ソーシャルディスタンス」です。さらに、「密接した会話や発声は避けましょう」ということで、団らんの場ではありますが食事は別室で取る、時間差で取るなど、おかずも一人一人盛り付けるというような工夫があっていいと思います。特に対面での食事はリスクが高いと思います。高齢の方と同居されている家庭では、高齢の方だけでもご自身のお部屋や時間を変えて食事を取るなど、向かい合わせにならないようにすることが感染のリスクを下げます。それぞれの家庭の事情で難しいこともあるとは思いますが、できることから一つずつ工夫することによってリスクを下げるということを考えていただければと思います。

狸小路商店街

緊急事態宣言の期間中、閑散としている狸小路商店街

年齢と基礎疾患だけではない。
重症化のキーワードの一つは全身炎症

 新型コロナでは、やはり軽症や無症状の方が多いというところが悩ましく、みなさんが不安になる大きな理由と言えます。「自分は感染していないのか?誰かにうつしてしまわないだろうか?」と。さらに急に重症化する方が、まれにではありますが確かにいるということも不安感を高める要因と言えます。重症化する方は多くの場合、高齢者であることと、糖尿病や腎臓病、慢性の呼吸器疾患、高血圧などの循環器疾患といった基礎疾患をお持ちであることがリスクを上げることは間違いありません。ところが、そういった基礎疾患、あるいは他の病的素因がないにもかかわらず重症化している方や、若い方でも重症化するケースがあるようなのです。
 特に最近問題となっているのが、頻度は高くないようですが、血栓症、あるいは血管炎といった血管に起こる病気で、心筋梗塞や脳梗塞といった疾患につながるケースがみられることです。突然倒れて亡くなったという方も実際にいるようですし、若い方でも意識障害が見られるようなケースもあり、まだまだ計り知れない部分があります。当然ですが急性の呼吸器疾患、いわゆる肺炎で悪化するケースは多いです。いずれにしても免疫・炎症反応のかく乱や暴走というのでしょうか、感染症によって生命を脅かす臓器障害が現れる、いわゆる敗血症、全身性炎症反応症候群(SIRS=サース)という状態になっていることがあるように思います。その意味では、新型コロナの重症化におけるもう一つのキーワードは「全身炎症」があるでしょう。ですから、体のどの部分で死につながるような重篤な症状が出てくるか分からないわけです。
 これは血液検査でリンパ球や白血球などの数値を調べなければ分かりません。また、血栓との関係では、Dダイマーと言われる血液凝固関連の因子が上がっていると重症化率が高いということが分かっており、これは一つの指標として使えると思います。

マスクによる「だ液エチケット」、手洗いの徹底、こまめな換気

 新型コロナの感染経路は、基本的に飛沫感染です。その他に、飛沫が付着したところを触った手を鼻や口にもっていくことでうつる接触感染、さらに最近ではエアロゾル感染も注目されています。一般的に人から出された飛沫は1~2mで落ちてしまいますが、ある程度空気中に数時間くらい浮遊しているような状態もあるのでは、といわれているのがエアロゾルです。エアロゾルは、いわゆるライブハウスなどの3密空間において、人の多い湿度が高い状態で感染が広がっているといわれ始めたことから、その対策として「換気」が強く言われるのです。
 感染予防の基本は、手洗いとマスク、それと換気です。「密接した距離での会話や発声は避けましょう」と言いましたが、実は咳やくしゃみをともなう感染は決して多いわけでなく、会話などでも感染します。ですから、症状を想起させる「咳エチケット」よりも「だ液エチケット」と呼ぶ方がいいのではと思っています。当初、世界保健機関(WHO)では、症状がなければマスクを推奨していませんでした。その後、やはり「みんなマスクをしましょう」ということになりました。このことは、症状がなくても感染している場合があるということにも通じます。咳やくしゃみでの飛沫よりも、むしろ頻度の高い会話での飛沫に気を付けなければならないということなのです。真正面で向かい合って1~2m以内の距離で会話をすると、マスクなしでは飛沫感染のリスクが非常に高くなるわけです。
 それを避けるために必要なことの一つがソーシャルディスタンス、離れるということ。もう一つはマスクで防御するということ。だ液などの飛沫に対して、最初の頃は布マスクでは意味がないとまでいわれていましたが、会話によるだ液由来の飛沫をブロックするのには布マスクでもある程度効果はあると思います。
 ただ屋外に関しては、マスクはした方がしないよりは良いでしょうが、近い距離で会話をするようなことがなければ、苦しいのを我慢するより、むしろ外してもいいのではないかと思います。ただし、屋内に入ったらしてください。ご家庭でもそのようにした方が良いと思います。
 また、接触感染にも注意が必要です。接触感染には、人から人の直接と、人から物そして人への間接によるルートがあります。感染経路をたどっていったとき、例えば3密空間の中で一緒にいた方からの飛沫でうつるというのは当然ですが、同時にその空間にはいなかった方からも感染しているという事例があるようです。そのことから、間接的な接触による感染もある程度あるということを考えなければ説明がつきません。
 接触感染の予防に欠かせないのは、やはり手洗いやアルコール消毒による手指衛生です。私は手指のアルコール消毒をことさら行う必要はないと思っています。確かに有効ではありますが、流水での手洗いさえきちんとできれば、物理的にウイルスを落とす効果がありますし、その他の汚れや細菌、あるいはノロウイルス対策にもなります。ノロウイルスはアルコールでは死にません。アルコール消毒は、水道がないときに補助的に行うものと認識し、とにかく流水で手を洗うということが習慣的に行われるようになることが大切と言えるでしょう。

第3波、あるいはインフルエンザを含め冬期間に向け準備すべき感染対策とは?

 変異を繰り返す中で強い病原性を持ってしまう可能性はゼロではないとは思いますが、過去のいろいろなウイルスにおいても、市中感染が広がる中で急激な変異を起こして病原性がものすごく上がることがそれなりの頻度で起こるとすれば、毎年流行している風邪症候群のコロナウイルスでそういうことが起きてもおかしくないわけです。そういったことから、病原性や感染力が上がるということに対しては、ことさら心配する必要はないのかなと思っています。
 むしろ、人間の側がウイルスとどのように付き合っていくかということの方が重要だと思っています。新たな波が起き始めたと察知したときには、直ちに封じ込め対策を講じれば一定程度に感染の山は抑えられると思います。そして私たち一人一人も日常の中でできることをこつこつと行っていくということが一番の対策だと思います。
 また、治療薬やワクチンにばかりに頼るのは得策ではないということも私の考え方です。もちろん、あるに越したことはありません。ただし、それらがあるから安心ということではありません。インフルエンザは検査薬、治療薬、ワクチンの3つ全てがそろっているにもかかわらず、いまだに毎年のように流行して多くの感染者、多くの死者を出しています。感染症対策とは、治療薬やワクチンさえそろえば解決するという問題ではないのです。

一人一人ができる感染対策として心掛けるべきこと。
新しい生活様式

 専門家会議から「新しい生活様式」が提言されましたが、それら全てを100%実践しなければならないと思う必要はないというのも私の考え方です。実を言うと、感染症対策に100%という手段はないからです。確実に効果がありそうだと思われる対策を少しずつでも、できることを一つずつ組み合わせていくことで感染リスクを下げていくということが大切だと思います。
 私からのメッセージとしては、5月末で一旦緊急事態宣言は解除されましたが、解除は終わりではなく、むしろ始まりだと思っています。緊急事態宣言とは、ある意味で国や自治体からの命令です。それが解除されたということは、国民一人一人に感染対策の責任が負わされたと思わなければならないのです。私たち一人一人の行動の変容が求められる始まりなのです。その意味でも、まずは新型コロナを「正しく知り」「正しく怖がる」ことで、自分のために、誰かのために、今できることを考えてほしいと思っています。

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