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CASE1 生活習慣病

神に与えられた遺伝子の資質を生かし
食事の改善と運動の習慣化で病気に克つ

医師画像
日本医療大学 総長
島本 和明
1971年札幌医科大学卒業。同大第2内科教授、同大附属病院病院長、同大学長を経て、2016年4月より現職。日本高血圧学会・日本動脈硬化学会各名誉会員。国際高血圧学会・日本老年医学会各理事。日本循環器学会特別会員ほか

体を守る遺伝子を敵に回すな

 以前、オーストリアとイタリアの国境の渓谷の氷河で見つかった約5300年前のミイラを解剖する特集がテレビで放送されたものを見ました。その解剖で分かったことは、約5300年前の人類(古代人)と現代人の遺伝子は変わっていないということでした。ただ、当時の人をよく見ると、痩せているということと、けがが多いという特徴が見られました。
 そこから分かったことは、古代人にとって生きていくうえで重要な点として、1つは多くの人はあまり食べることができなかったと思われることです。ですから、いかに少ない食事から栄養を取り、エネルギーとして蓄えられるか、もっと言えば太れる体質が好ましかったと考えられます。もう1つは、けがが多いということは出血するわけですから、出血による血圧の低下、さらには失血死を防ぐためにも、血圧を上げて血を固めやすい体質ほど生き残ってきたと考えられます。まさに古代人の一生はひもじさと出血との闘いの日々だったわけです。そして、そんな時代を生きるために神様が与えてくれた能力が、飢餓とけがから体を守り、生き長らえるための遺伝子、いわゆる倹約遺伝子なのです。それが飽食の時代になり、人間の味方だった遺伝子を全て敵に回した結果が生活習慣病なのです。

生活習慣を60年前に戻すと糖尿病は50分の1に減る

 血圧を上げやすく血を固めやすい遺伝子を持った人類は、贅沢をして必要以上に食べることで、コレステロールが増え過ぎれば血管が固まりやすくなり、動脈硬化や、さらには脳梗塞、心筋梗塞を発症しやすくなります。また、エネルギーを蓄えられる体質は食べ過ぎると肥満になってしまいます。その最たるものが糖尿病でしょう。糖尿病はこの60年ほどで約50倍に増えています。第2次世界大戦が終わったすぐ後の時代には、糖尿病は贅沢病といわれ、ほとんどいませんでした。太っている人もあまりいなかったと思います。それが戦後復興とともに車社会の進行と、動物性タンパク質など高カロリーな食べ物を中心とした食の欧米化によって肥満が増え、同時に糖尿病が増えてきました。例えば、現在の糖尿病患者さんが100人いたとすると、60年前は98人が正常だったと言え、その98人が60年前の生活をしていれば糖尿病にならないとも言えるわけです。わずか60年で遺伝子は変わるはずはありませんから、やはり生活環境が大きな問題であることは間違いありません。生活習慣を60年前に戻すことができれば糖尿病は50分の1に減るということです。
 肥満も20倍以上、脂質異常症も30倍くらいに増えています。高血圧はもともと日本人には多く、それほど大きくは変わっていません。ただし、高血圧を原因として、昔は脳出血が多かったのですが、現在では脳出血は減り、脳梗塞が増えています。栄養状態が悪かった昔は、例えば晩酌の際、升酒に塩を盛って、塩をなめながらお酒を飲むという習慣がありました。低栄養のため血管は思いのほかもろく、そこに塩をたくさん取って血圧を上げれば、もろい血管は簡単に破れてしまいます。現在は、栄養過多で血管はしっかりとして簡単に破れることはありませんが、逆に動脈硬化を起こしやすくなり、その血管に血の塊が詰まる病気が増えているように、病気の内容も生活習慣とともに変わってきているのです。これらのことに気付き、意図的に運動や食事に気を付けることが生活習慣病を考える根本だと思います。

「腹八分目」と「一汁三菜」

 食事に関して言うならば、昔から「腹八分目に医者要らず」ということわざもあります。動物実験で食事を半分だけ与えて飢餓にしているグループと、満腹にしているグループでは、飢餓にしているグループの方が長生きするという結果も出ています。満腹とは、食欲という意味では満足しても、健康という意味では決して満足できるものではないということです。
 もう一つ食事に関しては、「食べ方」にも問題があると考えます。ユネスコの無形文化遺産にも登録された「和食」ですが、その本来の姿は、ご飯と汁物と漬物に、生魚を使用したなます、焼き物、煮物の「一汁三菜」を一人前ずつお膳で食するというものでした。しかし、現在の食卓の典型的なものは大皿におかずを盛って、おのおのが好きな物を好きなだけ食べるというスタイルです。また、食卓からは漬物が消えつつあり、汁物も消えかかっています。食事の内容も、食べ方も大きく変わってきています。こういったところに工夫を凝らすことでも生活習慣病の予防につながっていくのではないかと思っています。
 ただし、気を付けてほしいことは、食事だけで体重を落とそうとする、いわゆる無理なダイエットは決して行わないでください。食事だけのダイエットは、まず筋肉が落ちます。その後、脂肪も落ちてきますが、安心してまた食べると必ずリバウンドして脂肪だけが増えます。それを繰り返すと筋肉ばかりが落ちて、脂肪だけが増える逆効果となります。運動で筋肉を鍛えれば脂肪は確実に減ります。食事と運動の両方をセットで行うということが大切なのです。

できることの継続が大切

 運動に関しては、普段車を使っても構いませんが、例えばエレベーターの代わりに階段を使うなど、歩く時間を意図的に生活の中に組み入れるということです。北海道は冬が長く、外を歩くのは寒くてつらいでしょうから、スポーツジムに通うというのも一つの選択肢でしょう。費用はかかりますが、健康を買うための投資と考えてはいかがでしょうか。
 また、よく聞かれることですが、多くの人がマラソンやジョギング、スポーツジムを含めて、「きつい運動をしなければならないの?」と構えて考えがちなのですが、それは違います。ちょっと急ぎ足で歩くだけでも素晴らしい運動になります。中には1日1万歩にこだわって、8000歩しか歩けないからやめるという人がいますが、できる範囲の運動を続けることが重要なのです。運動は量に依存して効果が出てきますから、5000歩でも半分の効果はあるわけです。
 肥満の人でも、何kg痩せようと思ったけれど目標体重にならないからと諦めて、すぐ元に戻ってしまったという話も聞きます。例えば、体重60kgの人が10%の6kgの減量を目指すとします。すると、血圧なら9~7mmHg、中性脂肪でも80mg/㎗下がります。メタボ健診とも言われる特定健康診査(特定健診)・特定保健指導のデータによると、10%減量できなくても、8%でも2割減の8割の効果はあるのです。目標の半分でもできることから始める。諦めて何もしないという方向に向かないようにすることが目標達成のコツだと思います。なかなか目標を達成できなくても、時間をかけてでもゆっくりと続けていくことが非常に重要なのです。まずは歩くこと。少しだけ急ぎ足で、汗ばむ程度に歩く。これは誰にでもできることでしょう。
 ちなみに、私も週5~6日はスポーツジムで走っています。30年くらい続いています。走るとストレスも取れます。一番いいのは靴とウェアさえあればいいという手軽さです。出張で全国各地に行きますが、ホテルごとに走るコースを決めていて楽しみにしているほどです。一番は皇居一周、その他ではお城の周りは平らな所が多く、信号もないので走りやすくて好きです。短くて2km、長くて5km。体重管理とともにストレス解消にもなります。
 初めから高い目標を立てず、長くできることから始め、それを継続させることが大切です。途中でやめては意味がありません。そして時間をかけて少しずつ量的に深めていければいいと思います。そのためには目に見える目標を置くということも大切です。万歩計を付けて何歩歩いたかをカレンダーや手帳に書く、毎日体重を測って書く、毎日血圧を測って書く、書くことでモチベーションは保たれます。ただし、あまり歩けていない人は万歩計を付けなくなり、太っている人は体重を測るのをやめます。行動心理学的に、人間は嫌なことや都合の悪いことは避けようとします。とにかく測り、書く勇気を持ちましょう。そこから全てが始まるのです。それができれば行動心理学的には8割方うまくいくと思います。

生活習慣病の治療の目的は「転ばぬ先の杖」を持つこと

 生活習慣病は体に何らかの異常があっても、現時点においては全く症状がないのが第一の特徴と言えます。そして、それらが連続的に続いた結果、20年、30年先に、動脈硬化によって脳卒中あるいは心筋梗塞、解離性大動脈瘤、腎不全、末梢の閉塞性動脈硬化症を発症することになるのです。そうならないよう20年、30年前からこれらの病気を予防するために気を付けることが生活習慣病という診断であり、全く自覚症状がない中で気を付けなければならないという、「転ばぬ先の杖」が、生活習慣病の対策や治療なのです。
 生活習慣病を治し防ぐために重要なことは、いかに健康的な生活習慣を維持していくかです。塩分を意識したバランスの良い食事、適度な運動の習慣化で肥満を防止するだけでも、結果として血圧は高くなりにくくなり、血糖やコレステロール、中性脂肪などの低下にもつながります。また今の時代、ストレスも重要な要素になると思います。ゼロにすることはできませんが、できるだけ少なくするよう心掛けましょう。
 さらに、もっと重要なことですが、たばこは動脈硬化にもがんに対しても絶対悪です。受動喫煙についても国でようやく法整備に取り組もうとしています。ただ、北海道は喫煙率が男女とも極めて高いという特徴があります。北海道は命名150年を迎えましたが、全国の歴史に比べると非常に短く、良くも悪くも伝統や因習といったものがあまり無く、非常に自由な道民性があるように思うのです。しかし、そのことが「自分が良ければいい、自分の自由だから」という悪い意味での考え方にも影響していて、例えば喫煙や飲酒、そして健診も受けないということにつながっているのかもしれないと個人的には思っています。
 また、人は病気になって初めて後悔するのです。長く患者さんを診てきて、心筋梗塞を起こした後はほとんどの人がたばこをやめます。肺がんの手術した後はもちろん、その他のがんを経験した人もたばこをやめる人が圧倒的に多いです。結論を言うと、たばこはやめられるのです。ただし、あくまでも大きな病気を経験しなければ気付かないという人がほとんどです。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は何十年もたばこを吸ってきた結果であり、気道が狭くなり、最後は肺が壊れて、酸素ボンベが死ぬまで離せなくなる病気で、COPDと診断された人たちはさすがにたばこはやめます。そして間違いなくその人たちは、「たばこをやめておけばよかったな。あれほどやめるよう言われたのに」と言います。しかし、やはり軽い病気、いわゆる生活習慣病のように症状が何もなければ、取り返しのつかない病気になるかもしれないということに気付けないのです。
 食事、運動、ストレス、たばこ、この4つに関する生活習慣の改善については、なるべく子どものときから守っていくことが大切であり、そのことが結局、全ての病気から自分を守っていくことにつながるのではないかと思います。